Nicotto Town


人に優しく。


踏むがいい


司祭は足をあげた。

足に鈍い重い痛みを感じた。

それは形だけのことではなかった。

自分は今、自分の生涯の中で最も美しいと思ってきたもの、最も聖らかと信じたもの、最も人間の理想と夢にみたされたものを踏む。

この足の痛み。

その時、踏むがいいと銅版のあの人は司祭にむかって言った。

踏むがいい。

お前の足の痛さをこの私が一番よく知っている。

踏むがいい。

私はお前たちに踏まれるため、この世に生れ、お前たちの痛さを分つため十字架を背負ったのだ。





ー 『沈黙』 遠藤周作 ー




 




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