Nicotto Town


人に優しく。


たった一人


「あなたは本当に真面目なんですか」と先生が念を押した。

「私は過去の因果で、人を疑りつけている。だから実はあなたも疑っている。然しどうもあなただけは疑りたくない。あなたは疑るには余りに単純すぎる様だ。私は死ぬ前にたった一人で好いから、他を信用して死にたいと思っている。あなたはそのたった一人になれますか。なってくれますか。あなたは腹の底から真面目ですか」

「もし私の命が真面目なものなら、私の今いった事も真面目です」

私の声は顫えた。

「よろしい」と先生が云った。





ー 『こころ』 夏目漱石 ー




 




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