Nicotto Town


人に優しく。


星をみてた


夫に背負われて林をでた。

広い背中からミコへ、少しずつ温もりを分け与えながら正太郎が坂道を上り始める。

坂を上りきったところで、つと正太郎が立ち止まった。

「ミコ、あんなところでお前、なにしてた」

静かな問いだった。

「星——」

「星がどうかしたか」

「星をみてた——」

正太郎は「そうか」と言って再び歩き始めた。

傷めた右脚を庇いながらゆっくりゆっくり坂を下る。

ミコもひと揺れごとに眠りに吸い込まれてゆく。

なだらかな下り坂を転ばぬよう歩む正太郎も、昨日より少し優しくなっている。





ー 『ホテルローヤル』 桜木紫乃 ー




 




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