Nicotto Town


人に優しく。


慈雨


あのころのわたしは、文を大人だと思っていた。

けれど、たった十九歳だったのだ。

わたしはただそこにいるだけで巨大な荷物となって文を押しつぶしただろう。

十九歳の大学生が、九歳の女の子をいつまでも手元に置いておけるはずがない。

いつかは必ずばれる。

休日にふたりでだらだらとデリバリーのピザを食べながら、布団でごろごろ寝転びながら、夕飯代わりにアイスクリームを舐めながら、はしゃぐわたしの隣で、文はゆっくりと追い詰められていったはずだ。

わたしはなにも知らずに甘えるばかりだった。

「……ごめんなさい」

「更紗が謝る必要はない。俺は俺のやりたいようにやっただけだから」

「でも昔も今も、わたしばっかり助けてもらってる」

——うちにくる?

ひどくつらかったとき、文のあの言葉は、慈雨のように何度もわたしを優しく濡らしてくれた。

わたしは今も同じように感じている。





ー 『流浪の月』 凪良ゆう ー




 




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