Nicotto Town


人に優しく。


マロニエの木


「あの木が、ひとりぼっちのわたしの、たったひとりのお友だちなんです」

彼女はそう言って、病棟の窓を指さした。

外ではマロニエの木が、いままさに花の盛りを迎えていた。

板敷きの病床の高さにかがむと、病棟の小さな窓からは、花房をふたつつけた緑の枝が見えた。

「あの木とよくおしゃべりをするんです」

わたしは当惑した。

彼女の言葉をどう解釈したらいいのか、わからなかった。

譫妄状態で、ときどき幻覚におちいるのだろうか。

それでわたしは、木もなにかいうんですか、とたずねた。

そうだという。

ではなんと?

それにたいして、彼女はこう答えたのだ。

「木はこういうんです。わたしはここにいるよ、わたしは、ここに、いるよ、わたしは命、永遠の命だって……」





ー 『夜と霧』 ヴィクトール・エミール・フランクル ー




 




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