Nicotto Town



題:「脱獄」 2


 


        五


とりあえず誰にもみつからず門の所までたどりつけた。 すんなり出れるのか? っと少し心配にはなったが、存外すんなり外に出れた。

やった!! 早く家に帰ろう。 でも今見つかったらまたあの鉄格子の中に連れ戻される。っと思い小走りで門が見えなくなる所まで走った。


いよいよ門から見えない所まで来たら心臓の鼓動も少し落ち着き、ようやく冷静さがもどってきた。 さてこれからどうする?

そう、来る時は動く乗り物で連れてこられたので、帰り道がちんぷんかんぷんで分からない。 たぶんこちらの方向だと思い歩いていても一向に見た事が無い風景ばかりで、徐々に心細くなってきた。

しまいに雨も少し降って来たのだが、急いで逃げてきたので傘も持っていない。

なぜ自分がこんな目に合わなければ成らないのか理由が分からない。 昨日までは家族仲良く暮らしていたのに、今日は一変してこんな辛い状況に。 と家族の事を思い出すと急に涙が目にたまってきた。

自分が何か悪い事をしたのか? なぜ天は私にこんな仕打ちをするのか!? 

こんな童謡まで頭に浮かんできた。  ~♪かあさんが~蛇の目でお迎え嬉し~いな~  もしかしたらもう2度と母親に会う事も出来ないかもしれない。

だんだん雨は強くなり、雨で前が良く見えないのか涙で見えないのか、はたまた顔を流れる水は雨なのか涙なのか、それすらもわからないまま歩き続けた。

市街地には人が住んでいるはずなのに、人っ子ひとりいないし誰ともすれ違わない。

ここはどこなんだ?

なぜ誰もいないんだ? だんだん心細くなり、もしかしたらこのまま二度と家族には会えないかもしれない。もうだめかもしれない。 っと思うと悲しみも去り、ほぼ放心状態でその辺りを彷徨(さまよ)っていた。



        六


前から初老の男性が自転車に乗ってやってくるのが見えた。 ようやく道が聞ける。助かった! しかも顔を見ると良い人っぽい。 まあ、困った時に手を差し伸べてくれる人は誰もが観音様のように見えるのかも知れ無いが、でも善人のような気がしたので道を聞こうと思った。


するとその老人は、片手に持った傘をこちらにさし出して言った 「どうした?こんな所で。 ずぶぬれじゃあ風邪をひく さあ傘の中に入りなさい。」

やはり善人のようだ。この人ならもしかしたら家まで連れて行ってくれるかもしれない。

その老人は言った。 「さあ、私と一緒に行こう。」 もしかしたらこの老人は自分の事を知っているのかもしれない。こちらが覚えて無くても特に年上の人は自分を知っている事はよくある。

これぞ天の恵み。 我は天に見放されていなかった!! 喜びと家族に会える期待、そして苦痛からの開放で一気に疲れが吹き飛んだ。 もうこれで生きて帰る事ができる。 また昨日までのように楽しい生活が戻ってくると思うと嬉しくて仕方が無かった。

そして暫く歩いた後、見覚えの有る場所にたどり着いた。


そう。 あの緑の鉄格子でできた、門の所に







さきほどの大女が、のしのしやってきて言った。「まあ、どこにも見当たらないし門が開いていたからびっくりしちゃった。」

初老の男性 「この子の着ているスモッグがここの保育園のだから、たぶんここの園児じゃろうと思って事故にでもあってはいかんでなあ。しかもずぶ濡れだ。」

痩せ型の女性 「園長先生、良かったですね見つかって。一時はどうなるかと思いましたー。」





絶望と落胆に打ち拉(ひし)がれ気が遠くなりかけた

 2才10ヶ月の頃の思い出





平成31年 3月14日





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.