Nicotto Town



過去の日記シリーズ 題:「脱獄」 1

 


        一



見たことも無い天に聳(そび)える巨大な鉄格子の壁で四方八方を囲われた収容施設のような所に連れてこられたのは、今日が初めてだった。

民家から少し離れた田んぼの中にそこはあり、緑色に塗装された鉄格子の一角にこれまた巨大な観音開きの門が見え、道はそこへ繋がっていた。
どんな原理かは分からないが動く乗り物に乗せられた自分は、その道の先の門の方面に連れて行かれるようだった。

空はどんより曇って今にも雨が降り出しそうだったが、少し前までの寒さは和らぎ比較的温和な日ではあった。

そして、その門の方面に近づいていくと中から百貫(貫は重さの単位)はあろうかと思うほどの大女がこちらを見ていた。


もしかしたら、あの巨大人間に自分は引き渡されるのか? もし、引き渡されたらここであの大女に殺され食べられるのかもしれないと考えると無性に悲しくなってきた。

いや、しかしそんな事は無いはずだ。 ここは単にどこか別の場所に移送する前に少し寄っただけの場所に違いない。たぶん今動く乗り物を操縦し自分を護送する人間が用事を済ませればすぐに移動するだろうと、状況をうかがう事にした。




        二


やがて動く乗り物は、その巨大な門の前で止まり護送者は乗り物から降り、門の中の大女の方に近づいて行った。

この後どうなるのだろう?っと思いその行動の行方を追っていると何やら二人で会話をし始めた。 時折笑い声も聞こえてきたので自分は少し安心し、鉄格子の中の建物の様子などを観察した。

話はすぐ済み護送者はこちらにもどってくると自分を乗り物から引っ張り出し門の方へと連行した。

やはり、あの大女に引き渡されるのか。 いや、単にチェックだけかもしれない 又、そうであって欲しいと願った。


しかし、期待もむなしく自分はその大女に引き渡されようとしたので、ありったけの力でそれを拒み逃げようとしたが大女と護送者の力にかなわず羽交締めにされながら中に引きずり込まれた。

2人はものすごい形相(ぎょうそう)で自分が逃げるのを押さえつけ雁字搦(がんじがら)めにし、逃げれないようにすると高笑いをした後、何やら合図を交わし護送者は去っていった。

何だかさっぱり意味が分からないが、この後どうなるのか? 

再度力を振り絞り逃げようとしても、すごい力で拘束されているので身動きも取れない。

そしてその大女が怪しい笑みを浮かべながら巨大なコンクリートで出来た薄暗い建築物の中に自分を連行して行った。




        三


建物の中には部屋がいくつもあり、そのうちのひとつに自分は押し込まれた。 部屋には自分と同じように連れてこられたと思われる者が何人か収容されていた。 

こいつらは仲間なのか? とりあえずいつものようにテレパシーで直接脳に接触してみようと念力を送ってみたが、そこにいた誰もが自分の送念を受信できないようで、全く誰もが無反応だった。

どうもこの者達は自分とは別の生き物らしい。 それが証拠に皆、訳も分からない無意味な行動をとっている。 

外見が人間のメスらしき格好をしたある者は、壁の一点を見つめて瞬きもせず永遠につったっている。 またある者は、オスかメスか見分けの付かない頭の毛が黒ではなくやや黄ばんでおり、部屋にあるものを無意味に永遠に触りまくっていた。

ここは動物園か? 誰か、この中で自分と同じ仲間はいないのか? と探していると 比較的栄養状態の良さそうな者がおり、さっきは念力が通用しなかったので今度は言葉で接触しようとしゃべりかけた。

その瞬間 激しい衝撃と何か焦げたような臭いがしたと思ったら激痛がはしり自分の鼻から血が出ている事に気付いた。

そう。その過剰栄養っぽいオス人間の形をした生き物が自分の顔面・鼻の辺りを思いっきりパンチしたのだった。

床には夥(おびただ)しい血がしたたり落ち、激痛で目も良く空けられない状態なのに、その生き物は ぼーっとこちらを見ていた。 その途端どこから来たのかさっきとは別の大女(こちらは痩せている)が飛んできて自分を看護しはじめた。

この大女も味方かどうかは分からないが、とりあえず激痛が治まるまでは頼るしかない。 ただ、その大女の目を見ると二心を持つような目ではなかったので少し安心し、その途端スーっと意識が無くなった。




        四


気付いた時には、自分は誰もいない別の部屋に寝かされ血が出た方の鼻には、何やら綿のようなものが詰められていた。どれくらい気を失っていたかは分からないがたぶん外が暗くは無かったのでそれほど長い時間ではないだろうと思った。


こんな所にいてはだめだ! いつ殺されるかもしれない。そうでなくてもまたさっきのような奴が攻撃してくるかもしれない! ( 逃げるしかない!) と思った。

しかし、建物や敷地の状況がよく分からない。 もし途中で見つかったら・・・・でもここにいるよりはましと思い、その部屋の大きな引き扉を開け隙間から部屋の外に出た。

外は長い木の板を張り合わせて出来た床のこれまた長い廊下だった。 左は暗いが右は明るかったので、とりあえず外に出ようと右の方向に出た。

明るい方はどうも常用出入り口のようで、そこには扉は無かったのですんなり建物の外に出れた。

建物の外は地面が砂で覆われており、真ん中が広場のようになっていた。 少し見渡すと鉄の骨組みだけで出来た構築物の向うにさっき引渡しをされた門が見えた。

そして、門を良く見ると業者が用を済ませているのか完全には閉められておらず隙間が少し開いていた。

しめた! あの隙間なら通過できる!

誰にも見つからないように気配を消して門の方に向かった。 だんだん心臓の鼓動は早くなってきた。 もし見つかったらおしまいだ。 だが行くしかない!



つづく




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