体調が悪く食事もとれなくなっていたので、以前、尿管結石をみてもらった町医者に行く。

先生が原因がわからなくて、痛み止めで1日様子みようとしていたが、念のため心電図・レントゲンを撮ったら心電図に異常が見つかり、レントゲンの肺もほぼ真っ白状態、すぐに救急車を呼んで、医療センターに救急搬送された。

あとから知ったのだが、急性心筋梗塞は発症から６時間以内の治療が、生死の分かれ目と言われているので、先生の適格な判断があったおかげと言える。

搬送後、検査で冠動脈が詰まっている場所を特定、心筋が壊死しているので、すぐにカテーテルでステント留置という心臓の詰まっている冠動脈を広げる手術をおこなった。ステントは２本入れたそうだ。

担当医に重い心筋梗塞と言われ、予後をみるため病室に入る。

１週間後、夜間に突然心室細動になる。心電図の警報音と館内放送で「コードブルー」が告げられていたそうだ。そういえば、意識が戻っていくとき、「VF・・・した」とか「○○さん、聞こえますか」って声がだんだんハッキリ聞こえてきたのも覚えている。あと、気管支が熱した鉄棒を入れたように熱くて息ができなくなってくる感覚におそわれたこともあった。電気ショックのときだったのかなと思う。

心の中で「先生もうやめてください」と言っていたような気がする。

２度目の不整脈のときだったか、ベットに寝たまま途中麻酔をかけながら、いつの間にかICUに運ばれた。

そこから13日間意識がなく、ICUに入ったことも出たことも記憶になかった。

途中、担当医が家族を呼んでくれたが、そのときだけは意識が戻った。麻酔を弱めたそうだ。

「これでお別れなんだな」と覚悟した。

家族には声も出ないので、「サヨウナラ」のかわりに涙で応えた。

その後も何度も心停止したようだが、心臓はふたたび動き始めた。

補助心臓を使い心臓が疲れないようにしながら、痛みがひどいらしく抑えるための薬剤の影響か「せん妄」という精神異常をきたし、そこから地獄のような生活が始まった。

病室の天井には、夜になると都市の夜景・お寺・仏像・お墓の幻影が見え、どうやって殺すかと話してる幻聴も聞こえ、数分おきに壁を叩くようなラップ音に悩まされた。

殺されるのではないかと疑心暗鬼になり、睡眠剤を使っても夜も眠れず、仮想世界をさまよっていた。夜、狐の面をかぶった女性の幻影も見た。病室で舞を舞っているのだった。なぜか、昨日聞いた幻聴の内容が、今日現実に起こるという時間の連続性に２つの世界の区別がつかなくなっていた。病室が動いて、何度も部屋が変わったように錯覚したし、夜、救急車がくると部屋の電気をつけたり消したりして、保護してもらおうとしていた。

点滴も5～7本両手にあり、動けないのに家に帰ると言い張り、ベットに縛られてしまう。１ヶ月くらいしてようやく、せん妄も抜けたのか正気に戻り、歩行リハビリをしたのだが、担当医は退院できたとして、よくて車いすと言っていたので、看護師さん達が「歩いてる」「うそ～」と小さく拍手しながら、ナースセンターで言っていたのを覚えている。

カテーテルアブレーションは４時間半くらいかかったが、反応が多くて担当医が驚いていたそうだ。アブレーションかICDか、どちらを先にするかかなり悩んだそうだ。

そして今はICDという除細動器が左胸に入っていて、心臓にリードが刺さっているそうだ。不整脈になるとそこに電気が流れて正常に戻すようになっている。心電図を常に監視してセンターに送信している。

そういえば、退院のとき「きょうは担当ではないけど、お見送りにきました」と来てくれた看護師さんがいた。ベットの机にありがとうの気持ちを込めて、折鶴をおいていた。「ゴミ残してごめんなさい。いなくなったら捨てて下さい」と言ったら、「もらっていいですか？」と聞かれて、「どうぞ」と応えた。なんか、気持ちが伝わったようで、ほっこりした。

退院のとき、「できることはすべてやりました。」と担当医が言われたので、これでだめなら寿命だなと思っている。