Nicotto Town



目の前にいた壱が腹を押さえたため、すぐに彼女の音だとわかった。
壱は顔を赤らめて周りを見回したが、他の二人はどうやら気付いていないようだった。
「お腹すいたなあ」壱が言う。それに便乗した扇子も「確かに!あれから何も食べてないし…」と不満を零した。
そう言われてみれば確かに腹が減った。「来てどれくらい経ったのかな」塩飽が考えるように腕を組んだ。
塩飽がそう言ったとき、他のみんなも考え出した。みんな全くもって記憶が無いのだ。
そんなことを考えていると陽はすぐに沈んだ。陽が沈んで間もなく、どこからか足音が聞こえた。
カーン、カーン廊下も鉄で出来ているのか、足音がよく響く。足音はだんだんとこちらへ近づいて来ているようだ。
「助けかなあ」壱が契の方に出来るだけ近づいてきた。声は明るく聞こえる。
足音は牢獄の前で止まった。暗くてよく見えないが、膝から下は靴まで見えていた。
扇子が助けだと思い立ち上がったとき、その足は口を開いた。
「ここから出たければ、これで自分の足を切れ」鈍く響く男の声だった。
男はそう言うと手から何かを落とした。刃物がぶつかるような音がして、数本のナイフが床に散らばった。
「二人出る奴を決めろ。他の奴らは二人が出た一週間後に出してやる。先に出た二人にはその椅子の上にあるいいものをやろう」
男の足音は遠ざかって行った。壱の契の服の裾を握っていた手が少し震えた。




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