Nicotto Town



いつもより遠くに来ていた。アノの話によると悪魔を召喚しやすい場所があるらしい。
悪魔を召喚するということは時空の狭間に落ちるということらしく、時空の狭間が深い程悪魔を召喚しやすいらしい。
周りは森で草が生い茂っており、とても人が来るようなところではない。
道無き道を四方八方に進むと、アノが既にスタンバっていた。
「私をこんなところに連れてきて…、後で覚えてなさいよ」リエドのアノと成人の両方に向けた言葉だった。
成人は張り切ってアノの傍に寄っていた。そして左手の指で輪を作るとそれを思い切り吹いた。
辺りに山彦のように響き渡るが、反応は無し。成人が落ち込んだ、そのとき。
ガサガサと草の間をかき分けるような音がした、足音と一緒に。その音は段々とこちらに近づいてきた。
成人の表情が明るくなったそのとき、目の前に現れた。似たような髪色、上はだらしなく着たシャツに下は短パン。
裸足で、どちらともの足首に縫ったような跡がある。「悪魔…じゃないよねえ」
成人はそう言い落胆した。それよりこの状況をどうとか思わないのか、とは思うがなんとも奇怪な風景だ。
走ってきた二人はピクリともせずに下を向いている。しかし手に持ったナイフで今にでも襲われそうだ。
手元を見ているときにリエドは気が付いた。二人とも悪魔の指輪をつけている。
これを一般には核と呼ぶらしいが、今はそんなことはどうでもいい。
何かを察知したのか、リエドは「帰りましょう」と言って背を向けた。
その後に続いてアノも歩き出す。そして成人が動こうとしたとき、「待て」男の方が口を開いた。
男の声のわりには高く、女らしい声だ。それに足を止め、一斉に振り返る。
その瞬間、男の核が桃色に輝いた。しかし周りを見渡しても何も起こらない。
するとアノの声が響いた。「上だ!」同時に上を見上げたリエドと成人の目の前にそれは立ちはだかった。
瞬時にリエドは成人の近くまで跳び、間合いを空ける。「トロールだ」アノはそれ以上は言わなかったが、それだけで十分伝わった。
トロールとはどんな悪魔か。目の前にいるコレが答えだ。トロールは一歩一歩確実に迫って来た。
これ以上は下がれない、とリエドが出した決断はこれだ。「アノ!あいつを喰って頂戴」
以前とは違い、慣れたように指示する。「主ノ命アレバ、誰ダロウト喰ッテ喰ッテ、喰イマクッテヤル!」
アノはそれだけ残すと実像の大きさを変えてトロールの背の高さ以上に跳んだ。
そして肩に噛みつくとトロールは呻き声をあげて地面に崩れた。が、当のアノの方も悲痛な顔をしてリエドの横に戻った。
何度も宙を噛んで顎の調子を確かめる。「吾奴、堅いな」結局のところ肩が頑丈らしい。
「主、我ではあれは噛み切れん」率直な感想を述べると、リエドは厳しく「私を守る気あるのかしら」と言った。
するとアノは苦笑するように眉間に皺を寄せ、「仰せのままに」と使い慣れない言葉でトロールに向かった。
トロールは動きが遅いため、まだ立ち上がったばかりだった。後ろの二人も気味悪く、片方の手を繋いだまま下を向いている。
アノは身を捩るようにして宙を裂き、トロールにのしかかった。
トロールも負けじと身体を揺すってアノを振り落とそうとするが、アノは爪を立ててのしかかっているためなかなか外れない。
その様子を見ていた女の子の方が顔を上げた。「ちょっと弱いんじゃない?」可愛らしい声で訊ねる。
男の子も同じことを考えていたらしく、頷いて肯定した。すると女の子は繋いでいた手を解き右手で左手を覆った。
何かを念じているようだったが、それが終わったのか、彼女は叫んだ。
「タナトス!!」刹那、辺りが一変する。先程まで晴れていた空は雲が覆い、雷が鳴りだした。
風も急に強くなり、周りの木が揺さぶられる。これこそまさに青天の霹靂である。
思いがけない風の強さにリエドは手で口元を隠す。成人も目を丸くして辺りを見回している。
アノはトロールを離れてリエドの傍に戻ってきた。が、トロールの後ろの二人は変わらず下を向いたままだった。
一瞬、視界が塞がった。真っ暗闇の中、リエドは必死に成人とアノを探した。
だが、見つからない。これでは暗中模索だ。リエドが動きを止めたとき、誰かの手が指に触れた。
指を撫でるようにして、そのとき確かに核が無くなる感覚があった。
「もらっちゃった」可愛らしい女の子の声。それと同時に視界が開けた。
リエドの目の前にいたのは、漆黒の闇のような深い目…、正しく言えば目は無い。
今すぐにでも噛み切られそうな口。そして体中に取り巻くそうにしてついている棺桶の形をした盾。




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