Nicotto Town



「タナトス…」リエドがそれを口にしたとき、女の子の眉が動いた。
「知ってるの?意外ね」そう言って笑うと先程取られたはずのリエドの核を見せた。
リエドは全身の血が引く思いをした。アノがまだ存在していることを確認する。
アノの横にいた成人はタナトスを一心に見つめ、何も動揺がないように見て取れた。
「成人…?」アノに指示するより先にそちらが気になった。
成人はリエドの声を聞いてか、微笑むと足下から棘の蔓を出した。
それはタナトスの後ろの二人に向かっていき、一瞬にして二人を宙に締め上げた。
二人はその予想外さに驚いたような顔を見せた。今までの流れでは一度もこんな顔はしていなかった。
それより一番驚いていたのはリエドの方だった。「どうして…それを?」
成人は口を開かなかった。そして、リエドの核を取ると、棘を使ってリエドのところまで運んだ。
「…ありがとう」一連の流れを見てもリエドはまだ理解していなかった。
そのとき、「タナトス!あいつを殺って!」女の子の声が響いた。
リエドの反応が遅れたが、アノはタナトスが進む道の間に割り込んだ。
「こんなところまで八柱の長様がいらっしゃるとは…」アノは不意に振り下ろされた刃を受け流して語りかけた。
タナトスは再び剣を振り下ろしてアノまでの間合いを縮める。「貴様も長だろうが」
アノは剣をかわして後ろに跳んだ。タナトスは八柱の中で最もの暴君、言葉遣いも汚い。
しかしアノはそんなのは慣れたというような顔をして、一歩踏み込むと高く宙に跳んだ。
それはタナトスを越える、もっと遠い跳びだった。ここまできてタナトスはやっと気付いた。
狙いはタナトスではない。タナトスの核だ。タナトスが急いでそちらに向かうと、アノは女の子を覆った。
「それ以上動くな。核を壊すぞ」まるで何かの犯人かのように人質を取る。
タナトスは一瞬にして立ち止まった。動きの遅いトロールなんか、かなり前からついてこれていない。
アノは丁寧にタナトスの核を取ると、隣に移る。そしてトロールの核も取るとリエドの横に跳んだ。
その瞬間、成人の棘がみるみるうちに無くなり、成人が地面に倒れた。
「成人!」リエドが駆け寄り、心臓の音を確認すると正常に動いていた。
ホッと一息つくと、今の状況では向こうに勝利がないことを確認する。
「アノ、壊して」リエドがそう指示した途端、タナトスはもうスピードでリエドに駆け寄った。
自分が消えるとこは決まっているので、アノも一緒に消そうという魂胆だ。
そして、リエドの腕を引っ掻いたとき、リエドが逆でタナトスの手を掴んだ。
「交渉成立ね」リエドがそう言った瞬間、タナトスは姿を消した。後ろにいたトロールも一緒に。
リエドはアノに寄っていった。アノの口元に手を翳し核を受け取る。
しかし、核はどちらも壊れてはいなかった。その核をしっかり握ると今にも泣き出しそうな顔をしている二人に寄る。
「どうぞ。あ、あと私の言葉は絶対よ」核を返して軽くため息をつくと、踵を返して成人の元に向かった。
成人を抱えると二人の方を向き、首を大きく振って「行け」の命令を出す。
すると二人は立ち上がり急いでリエドの前に行った。しかし棘の傷が痛むのか、動きがぎこちない。
「貴方たち、名前は?」リエドの問いかけに恐々振り返ると「ウチは離鳴です」と女の子が言った。
それを見ていた男の子の方も「…契です」と呟いて、また前を向き直した。




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