Nicotto Town



「俺は出ねえよ」契は頭の後ろに腕を組んで壁にもたれかかった。
その言葉に反論は無かった。誰も足を切ってまでしてここから出たくない。
誰も皆、ここで生涯を閉ざすんだと思った。「お前らの中から出せよな」
契の冷たい声が響く、壱は咄嗟に契の服を離した。震えはまだ止まっていない。
契はそれだけ言うと満足というように目を瞑った。そのとき、顔に何やら冷たいものが跳んできた。
契は手で顔を拭い、それを見てみると、「血…?」赤かった。
契は驚いて跳んできた方に目をやると、そこには足を削ぎ落とす離鳴の姿があった。
足からいくら血が吹き出ようと、どれほど痛みを感じようとひたすらに足を切り続ける。
他の三人は皆唖然としている。我に返った瞬間、一斉に離鳴からできるだけ離れる。
「離鳴ーっ!」契は出せるだけの大きな声で叫んだ。離鳴が、離鳴がー…。
それしか考えない。今まで一切の交流は無かったが、何故か離鳴に異常な執着心があった。
離鳴は両足を切り落とすと、無い足で足枷から抜けた。そして置いてある足を掴むとそれを持って牢を出る。
牢には一切鍵などしていなく、扉は簡単に開いた。離鳴はそこで足を床に落とすと、まるで靴かのように切り口を擦りつける。
「もういいかなあ」離鳴はそう言うとぎこちなく歩きだした。目的は椅子の上の指輪。
「これ、どっちもウチが貰って良いよね」離鳴がそう言った瞬間三人は悪魔を見るような目で、首を全力で縦に振る。
でも契は違った。離鳴が落とした血の付いたナイフを手に取ると、自分の足を切り落とす。
何度も何度も。痛みも怖さも無かった。唯一あるとしたら、目の前の離鳴がいなくなること。
何故?そんなことはわからない。契の行動を見ていた離鳴も目を丸くして驚いた。
込み上げてきた感情は怒りではない。自分を追ってくれているという嬉しさだった。
例え目当てが指輪でも、そんなことは関係なかった。離鳴は契が切り終わるまでずっと飛び散る血を見つめていた。
契は離鳴が躊躇いなく足を切ることから、そこまで痛くないと思っていたが、切り始めてからだんだん痛みが増してきた。
でも契はそんなことでは手を止めない。離鳴が待ってる。最後まで切り落とすと、契は握っていたナイフを落とした。
ナイフと鉄が交わる音が響く。壱の顔が恐怖に歪んでいた。そちらを一瞥し、すぐに足下に目を落とす。
足首をなんとか動かし、足を前に運ぶ。切り口が冷たい鉄と接する、痛い。足を持つと離鳴の方へ歩いていく。
離鳴の前に足を放って、その上に足首を押しつける。足が付いた手応えがあった。
そうして離鳴の方を見た瞬間、離鳴は契に抱きついた。契は足を切り出してから、全ての心を捨てた。
だけど、離鳴の抱擁はとても温かく、元の自分に戻れた。離鳴は契を離すと指輪を片方渡した。
契は左手の小指に納める。離鳴も同じく付けると、何かを念じた。
刹那、目の前が真っ暗になった。否、何かが現れた。漆黒の闇のような深い目。
今すぐにでも噛み切られそうな口。そして体中に取り巻くそうにしてついている棺桶の形をした盾。
「タナトス、殺して」何も情報の無い中、離鳴はそれをそう呼んだ。
その瞬間、タナトスは壱、扇子、塩飽に寄った。三人は怯えきった目で見る。
タナトスは三人を呑み込んだ。生気の失った目でこちらを見る壱。胴は半分に千切られて、手足は落ちる。
最も、離鳴も契もそれを見たが、何も感じなかった。何かを感じる気力が無かった。
タナトスはことを終えると、離鳴の横に寄ってきた。それを確認してから、ゆっくり歩き出す。
二人は倒れないように、しっかり寄り添った。そして、意識が途絶えた。




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