Nicotto Town




「そして気が付いたら、あの森にいたの」そこまで話すと離鳴は足を止めた。
その内容を聞いて愕然としていたリエドを見る。リエドはじっと見てくる離鳴を見返した。
そして離鳴はゆっくり口を開いた。「ウチは正直言って、負けるとは思わなかった」
唇を噛み締めて、リエドを見る。そして、一瞬にして地べたに正座するを大きく頭を下げた。
所謂土下座である。それに驚いたリエドが頭を上げようとすると、「お願いします!」離鳴の声が響いた。
「行くところが無いです!貴女の為ならなんでもします。人も殺せます」それと同時に契のお腹が鳴る音が響いた。
リエドがそちらを見ると、契は顔を赤くして、離鳴の横で頭を下げた。「お願いです!」
それを見たリエドは微笑して大きくため息をつくと、「私についていらっしゃい」と二人の頭を上げた。
女神のような優しい笑顔に感動した二人は、泣きそうな顔でリエドに抱きついた。
リエドは二人の母親のような気分になり苦笑すると、「ご飯が待ってるわ」と言って二人を撫でた。
こんなに人間を愛らしく思うのは久しぶりだった。多分先程の話に心が呆気にとられたのだろう。
そんな過去のある二人まで同じ扱いではさすがに可哀想だった。
離鳴は話に出てきた人とは全く違う人物のようにはーいと手を挙げると立ち上がった。
今度はリエドが歩き出して、離鳴と契が後ろを追う形になった。
「話だけ聞くと、契は離鳴が好きなのね」リエドがそう言うと、今までそういう感情がなかったのか、契は頭に疑問符を浮かべた。
「好き?」契が訊く。そこでリエドは気が付いた。記憶が無い、ということは感情すらも記憶からなくすものか。
うまく笑って誤魔化すと、離鳴はリエドに飛びついて「ウチは姐さん、好きです!」と嬉しそうに言った。
「姐さん…?」リエドが不服そうに訊くと、「はい!姐さん、そう呼ばせて頂きます」そう言って離鳴は微笑んだ。
リエドが顔を顰めていると、契も寄ってきて「離鳴だけずるいぞ。俺も姐さんって呼ぶ」リエドの空いてる手に掴まった。
リエドがそれに頭を抱えていると、家が見えてきた。「すげえ、あの豪邸」契が感嘆の声をあげる。
「ウチもあんなところ住んでみたいなあ」と離鳴が言ったところで、リエドの異変に気が付く。
頭を悩ませていたため、不穏な表情を浮かべていたリエドを見て、怒ったと勘違い。
これからお世話になるというのに、失言だったか。離鳴がリエドの顔色を窺っていると、リエドがその視線に気付いた。
「何?」「あ、いや…、失言だったかと…」リエドの頭に疑問符が浮かんだので、離鳴が豪邸を指さした。
リエドがそれを見て、「あ、あれ私の家よ」と平然とした顔で言った。
その言葉に離鳴と契は口をポカンと開けて、その豪邸を見つめた。
「あのお…」離鳴が恐る恐る訊ねる。「姐さんの名前伺ってもよろしかったですか」
そう言うと、リエドが言ってなかったか、と思い出したような顔をした。「リエド・リディクローズよ」
しかし、世間知らずの二人がその名を知るハズもなく、なんかすごいなあという感想で終わった。




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