Nicotto Town



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「アノさんですね」目の前に現れたのは、背が高く、髪が短く、漆黒のドレスを纏っている女性だった。
自分のことを知っているということは悪魔の召喚主である可能性がある。
アノは警戒しながら女性を見つめた。「こちらは蝶乱です」蝶乱と名乗る女性は傅いて挨拶をした。
蝶乱は立ち上がると後ろにいる契と離鳴に目を向ける。二人は既に戦闘態勢に入っている。
「そう堅くならずに。こちらでリエド・リディクローズさんを招いております」
その言葉を聞いた瞬間アノの表情が一変した。「そちらのお二方とご一緒にどうです」
蝶乱はアノの同行を促す。が、「本当にリエドはいるのか」アノは警戒を解かない。
「居りますとも。天に誓えます」蝶乱は微笑してアノの目線の位置に屈む。
アノは躊躇っていたが、決心がついたようで後ろを振り向く。
「お前らは家に帰ってろ」それを聞いた二人は不服そうな表情を見せた。
「ウチら足手纏いにはならないですけど」離鳴はそう言うとそっぽを向いた。
契も行きたそうな目でアノを見つめる。アノは少し考えると、「しょうがないな」とため息をついた。
その言葉を聞いた瞬間、二人の表情は明るく晴れて、アノに近づいてきた。
「では、参りましょうか」蝶乱はそれを見ると踵を返して先導する。
ほんの少し歩いたところの事務所がたくさんつまっているビルの前で蝶乱は足を止めた。
「ここか?」アノが訊ねると蝶乱は頷いて扉を開き、中に入った。アノたちも追って中に足を踏み入れる。
蝶乱はエレベーターには目もくれず、階段まで移動する。そして地下に行く階段を下った。
その様子を見ていた契は「なんだか薄気味悪いな」と感想をこぼす。
そして何度も階段を下り、階段に続きが無くなるところまで来ると、廊下に足を進めた。
今までの階と違い、扉が一つも無い。一番奥に付くと、壁にスイッチのようなものが付いていた。
蝶乱がそのスイッチを押すと、目の前の壁が開けた。そこは不思議な世界だった。
先程まで何階も下りてきたはずが、窓がきちんとあり、陽が差し込んでいる。
契と離鳴の思ったことは同じだった。「なんで…」小さく呟く。
そこに大きなソファーが一つ。誰かが座っている。「いらっしゃい」"悪魔に喰われた人"、氷だった。
大きな窓からの逆光で全体が黒くてよく見えない。だが、それが氷だということはわかった。
なんとも不思議な光景に二人は目を疑う。アノは眉一つ動かさず黙り込んでいた。
そこへソファの近くの扉からもう一人女性が現れた。赤く染まった髪、澄んだ隻眼。
口には煙草を銜え、凛とした綺麗な女性だった。煙草を手に持ち、息を吐くとアノの様子を見る。
「本物だな」女性は嬉しそうに口元を緩める。そして氷の横に腰掛けた。
蝶乱はその二人の元へと契、離鳴、アノを案内する。もう一つのソファーへの着席を促すと、氷の後ろについた。
「申し訳ありません。直々に足を運んで頂けるなんて」氷は蝶乱に深々と頭を下げる。
この三人の関係はよくわからない。今までの流れからいくと、蝶乱はメイドに近いところがある。
が、今の氷の態度からすると蝶乱の方が地位が高いようにも見て取れる。
一番わからないのは隻眼の女性。何せ偉そうな態度で偉そうに煙草を吸ってることしか情報がない。
「自己紹介が遅れたなあ。儂は氷や。そんでこっちの赤いのが雁」そう言って自分と隻眼の雁を指さす。
「ほんで…、こちらの方が蝶乱様や。もう知っとるやろ」右手をあげて蝶乱の方に向ける。
有無を言わせる前にソファーの肘掛けに頬杖をついて、氷は冷酷な笑みを投げかけた。
視線だけでも殺されそうなほどの迫力。すぐに冷や汗が額をつたう。
「本題に入りましょか」氷の視線が刺さる。他の蝶乱と雁もこちらを向いているが一言も話さない。
蝶乱に至っては様がつくほどの大物に関わらず、立ったままである。
「あたしはあんたを殺すわけやないで。仲間になってほしいんや」
その言葉にアノは眉をひそめた。「寝返れと?」少し天を仰いで考えたが、氷はすぐにアノに視線を戻した。
「ちゃうな。今の仲間のことを忘れて、六柱を倒す。っちゅうことや」
つまり氷自体はリエドたちにどうこうするとかいう考えはないようだ。ただ、きっぱり忘れてくれるなら、の話。
しかしそれには問題があった。「無理だな」アノは数秒たりとも間を空けず、即答した。
「なしてや?そっちに問題はあらへんやろ」不機嫌そうにアノを見下す。
「否、あるな」アノの答えに氷は興味ありげな素振りを見せた。「なんや?」
「俺の仲間に六柱の長を操る者がいる」予想外の答えに蝶乱、雁、氷は交互に目を見合わせた。




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