星の魔法少女~誕生物語~ 【その2】
- カテゴリ:自作小説
- 2013/09/11 19:36:13
「・・・こんばんは、お嬢さん。お会いできて光栄です」
屈み込んだまま、あっけに取られた表情で、声がする方へと顔を上向ける。
するとそこには、柔和な笑みを浮かべて佇む、一人の女性の姿があった。
黒い髪、黒い双眸、黒いドレス。
色だけ見ればこの夜闇に溶け込んでしまいそうだが、肌は雪のように白い。
澄んだ美しい声といい、その雰囲気といい、まさに「美人」と言うべき女性だ。
「あ・・・あの・・・貴女は・・・?!」
黒猫が女性に姿を変えたということだけでなく、その目を射るような美貌により、私の混乱はピークに達していた。
どうにか声を発したものの、それはどこかありふれた問いにしか、形を成さなかった。
「私は――」
女性はそう言いながら、ぽかんと屈み込んだままの私の手を引いた。
彼女とあまり変わらない目線になったところで、その続きを口にする。
「星の神官様の使者、ポーラです。このところ私は、神官様の命を受け――星や星座に詳しい方を、探していました」
そう言い終えてにっこりと微笑むさまは、まさに「それが貴女です」と代弁しているのだろう。
「ああ、もうすぐ、神官様との疎通の扉が開きます・・・! どうかこの時だけでも、神官様の話を聞いてくださいませんか?」
首輪から大きなポシェット風時計へと変化した文字盤を見ながら、ポーラと名乗った女性は、少々慌てたように言った。
「この傘が、疎通の扉になっているのです。さあ、どうぞ、この傘の内側を、よーく見ていてくださいね・・・?」
私が返事を挟む隙もないまま、ポーラは嬉しそうに、手に持った傘をくるくると回し始めた。
それも、私から傘の内側が見えるように・・・。
回し始める前の一瞬、その内側には、様々な星座が描かれているのが見えた。
まるで今いる丘の夜空を、切り取ったようにも錯覚する。
チャラ、チャラ、チャリ・・・ッ。
傘の淵の装飾が、鈴の音のような音を響かせる。
視界はまるで、星が流れて回転するよう。
耳には、澄んだ音が徐々に反響してくるようで――。
ハッと意識が戻ったような感覚の後、私の前には微笑むポーラと、その傘の内部に写った、一人の人物が見えていた。
「こんばんは、はじめまして。貴女が、ポーラが選んだ星の少女ですね」
傘の中の人物は、そう言ってどこかあどけなく、無邪気に微笑んでみせた。
(つづく)