Nicotto Town



年末年始に腐ってみました 5

和也2

地図によると、遠矢達がいるのは町を正面に見た状態で左前方に見える山の向こうらしいのだが、ちょいと乗り越えるには骨が折れそうなので、無理をせず町を抜けてまわり道して行くことにした。
しかし、その前に確認しておくことがある。
こっちの世界へ落ちる瞬間に着ているものも変わったようだが(おれは今、皮革製の鎧と洋風の剣を身につけている)、持ち物はどうだろう?
「あんたさ、その肩から提げたずた袋に何入ってんの?」
そう言いながら、おれも背中に負ったバッグを下ろそうとした時、そいつがいきなり大声を上げた。
「は! そう言えばいきなりこっちへ飛ばされて来たから、家の鍵が開けっぱなしです」
ああ、そういやウチもそうだった。その時、またあの声が響いてきた。
「こちらの世界で過ごした時間は、向こうではなかったこととなります。
つまり、こちらの世界へ落ちてきた直後の時間へ戻ることとなりますので、どうぞご安心ください」
それはまあ、安心(?)だけど、でも…
「一体どういう仕掛けだよ?」
聞いてみたが、返答はなかった。おれの質問はシカトかいっ!

まあとにかく、バッグを下ろして中を確認してみることにした。
「私の方は、本…どうやら魔術書のようですね。と、ペンにインク。紙。毛布にランタン、火打石の入った箱…え、これで火をつけろってことか?」
「多分そうだろうな。あんたやったことある?」
「ある訳がない。現代日本人でやったことのある人なんて、よほどの物好きくらいなものでしょう。 とにかく後は、大型ナイフと食器類、保存食らしきもの。ああそれと、ベルトポーチにお金がある」
「こっちは、毛布と、多分絹布…もしかしてこれで剣を磨けってか? 松明、大型ナイフに食器類、保存食。あ、こっちにも火口箱があるわ。んで、ベルトポーチにお金と、この袋は…あ、酒だ」
腰についた小さな袋の栓を開けると、ぷんとアルコールの匂いが漂ってきた。
「え、私のはただの水なのに」
それを見て不満そうにそいつが言うが、どんな酒だかまだわからないじゃないか。ひょっとしてすごく不味い可能性だってある。
んな訳で、試しに一口飲んでみた。
「あ、意外とイケる。なんか果実酒っぽい」
そんなおれを見てそいつがうらやましそうにしているが、とりあえずここは見て見ぬふり。折角の酒だし!
「んじゃまあ、町に向かって出発しようぜ」
「そうですね」

んが、思ったよりも町は遠かった。
「おい、大丈夫か?」
さっきからふらふらしていたそいつ(ああ、そう言やまだ名前聞いてなかったっけ)が、ついにへたり込んでしまった。
「大丈夫の訳がないでしょう。私は元々過酷な運動には向いていないんです」
過酷な運動って、またえらく大袈裟な。
「じゃあ、おれは先に行くぜ。遠矢が待ってるしな」
そう言って歩き始めると、そいつも慌てて後を追ってきた。
「なんだよ。休んでりゃいいじゃん」
「私だってトーヤのためならば、少しくらい無理はしますとも」
ああ、そうですか。




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