Nicotto Town



年末年始に腐ってみました 6

遠矢3

「大丈夫かよ、おい」
トーヤくんが振り返ってそう声を掛けてくれる。
それへと一応頷いてはみたものの、正直言ってかなり限界だ。
あれから何時間歩いたんだろう。
歩いても歩いても景色が変わらなくて、全然移動してないような気がしてくる。
一生懸命歩いているのに移動している実感がつかめないのって、意外と精神的だけでなく体力的にもきついと言うのを初めて知った。
俺、いつになったら和也さんに会えるのかな。
「あのさ…」
そんな事を考えていたら、トーヤくんが隣から声を掛けてきた。
「まだたった2時間だぜ? それでそんなにきついんならさ、リタイアしてもいいんじゃねえの?」
「それは…」
それはなるべくならしたくなかった。だって和也さん、あの声に楽しそうに答えてたし、だからもしかしたらこの現状を楽しんでるかもしれないし。
そう考えると、俺の勝手でこの旅を終わらせる訳にいかないと思った。
「まあさ、とりあえず一休みしようぜ。オレも疲れたしー」
そう言うと、トーヤくんはいきなり草の上に座り込み、そのまま仰向けになった。
「あんたもやってみ? 結構気持ちいいぜ」
その言葉に、俺も草の上に腰を下ろし、仰向けにひっくり返ってみた。
ああ、本当に。草は柔らかく身体を受け止めてくれるし、風が疲れて火照った顔をなでて行くのがすごく気持ちいい。

「おい、起きろよ」
「あ…」
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい。
「ごめん、寝ちゃうつもりじゃなかったんだけど」
「いや、そりゃいいけどさ。それより腹減らねえ? さっき袋ん中見てみたら干し肉とか乾パンとか入ってたから、それでメシにしようぜ。あんま美味そうじゃないけど、まあ贅沢は言えないしな」
その言葉に俺も自分の袋を探ってみると、確かに干し肉と乾パンがあった。そして栓のついた腰の袋には水も入っている。贅沢を言わなければ、お腹を満たすだけの役には立ちそうだ。
「ところでさ、これなんだと思う?」
食事の途中、背負い袋をごそごそやっていたトーヤくんがそう言って俺に見せたのは、石と鉄片と木くずとひもの入った箱。・・・ごみ?
「ごめん、俺にもさっぱりわからない」
そう言うと、「ふーん、まあいいや」と言ってそれをしまってしまった。
そう言えば俺の袋には他に何が入ってるんだろう? そう思って取り出してみると、最初に出てきたのは本だった。
「うげっ、なにその分厚い本」
その本を見て、トーヤくんが声を上げる。とりあえず開いてみたら…なんか…魔法の使い方が書かれてるような?
そう言えばここへ来る前、和也さんが俺は魔法使いでいいかって言ってたっけ。
じゃあ、これで魔法が使えるのかな? ちょっと試してみようか。
俺は立ち上がると本に書かれている説明の通りに腕を振り、呪文らしきものを唱える。
「水よ、偉大なる水霊王の名に於いて我が導きに従い、我が掌の中へ」
すると、くぼませた手のひらにあふれるほどの水が、どこからともなく現れた。
「なにそれ、まほー? まほー? すげえ!」
それを見て、トーヤくんが興奮したように声を上げる。
けど・・・そう言ってくれたのが和也さんだったら、もっと嬉しいのに。
トーヤくんには申し訳ないけど、こっそりそんな事を思ってしまった。

「じゃあ、そろそろ出発しようぜ」
一服した後、トーヤくんがそう言って立ち上がった。
「うん、そうだね」
俺もそれに応えて立ち上がる。
和也さん、早く会いたいです。


どうぞよいお年をお迎え下さい^^




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