Nicotto Town


うみきょんの どこにもあってここにいない


思い出は遠くて近い


夏の思い出…
いつの夏のことだろう。
今年の夏だろうか。それとも、かつての…。
思い出というと、なんとなく昔のことのようなきがする。
そういえば、このごろ、昔のことをよく思い出す…
というのとはすこしちがう。
昔のことが、遠くなっている。その遠さごしに
かつての自分を、どこか他人ごとのように
ながめている自分に、しずかな驚きを感じている…。
ほんとうに、あれがわたしだったのか。
つながりがないようで、でも、まぎれもなく
わたしなのだけれど。

或いは、思い出のなかで、いきているような気もする。
ずっと、それは悪いことのような気がしていたが
それなりにながく生きてくれば(まだそれほどの…
たぶん、年齢じゃないのかもしれないが)
過去もふえる。過去たちがたくさん、つみかさなって
今の自分があるのだから、思い出だってふえて当然だ。
それにいかされている部分もある…。
ふりかえって、昔はよかった、という意味で
美化しているわけではなければ、
思い出を肯定して、もっと、いいのだ。

ところで、夏の思い出。たくさんありすぎて、どれをあげたらいいか。

たぶん20歳ぐらい。
木がすこしうわっている、道に面した公園。
夜中だった。すこし、酔っていたわたしは、
何気に、公園のベンチにねっころがってみた。
木々につつまれるようで、心地よい。
木洩れ日はなかったけれど、星たちが木々の間から
ふってくるような、やさしい夜だった。
暑さがひいて、すずしくて、すごしやすい。

調子にのって、道のほうへむかい、
道路に大の字に寝てみた。
車もさっきから、ほとんど通っていないことは
確認していた。
すこしの冒険、という意識があった。

アスファルトがじんわりと熱をおびている。
昼の暑さを温存している。
それはひと肌のようだった。
たぶん、そのことに、感動したのだと思う。
道路にやさしさをもらったような気がした。
……じつは、もう、とおい記憶なので
そのときに、どう思ったのか、このぐらいまでしか
思い出せない。

実際、アスファルトを感じたのは数分だと思う。
車にひかれちゃうよなと、なかば笑うような気持ちで
すぐさま、起き上った記憶はあるから。

今はもうアスファルトに寝転ぶことは
色々、差しさわりを考えてしない。
それは正しいことのように思うけれど
どこかさびしい。

あるいは、あの温かい、アスファルトの記憶があるからこそ
ものたちへ、どこか、ひと肌を感じることがあるのかもしれない。

たとえば、わたしの愛用の腕時計。
24歳位のとき、ボーナスで買った。
そのころにつきあっていた、私の尊敬する、
もう、本当に師匠とでも、いうべき人が
「本物とせっしなさい」といったことがあった。
そこには、本物を持ちなさい、という意味もあったと思う。
どういうことかわからない面もたくさんあった。
たとえば、絵画や骨董なら、本物をもつのは
おかねが無いと無理だ…。
いや、そういうことをいっているのではなかった。
それは本物を見なさいというだけでいいのだ、
本物の小説、本物のなにか…
そうして、なにかを研ぎ澄ますこと。

話がそれるが、ともかく、本物の意味がわからないまま
腕時計を買った。
それまで、何回か安いもの、買っては買い買えていたので
もう、そろそろ、そのサイクルを断ち切りたかったというのもあった。
カルティエの時計。
シンプルで品があった。
遊び心もたくさん。
ローマ数字のXの\が、虫めがねでみないとわからないほどだけれど
カルティエの文字になっている。
あれから、もう。
今も使っている。修理も何回か出して。
だいぶ疲れてきたけれど。

昨日、ひさしぶりに都会にでかけた。
時計売り場があるところ、たまたま通ったので
みてみる。日常、仕事のときなどにする時計がほしいなと
思ってのことだ。
だが、だめだった、カルティエの腕時計が好きすぎて
どれも、いいと思えない。
その時計を休ませるためのものが欲しいと思ってのことなのに
選ぶことができなかった。
やっぱり、あの子がいいなあ、あの子以外の子は考えられない。
どんだけ、好きなんだと、苦笑してしまう。
それなら、ベルトがそろそろ疲れてきたから
それだけ、買い買えるほうがいいか…。

そう、腕時計を殆ど擬人化して、大事に思っている。
あれは、あのアスファルトにひと肌を感じた記憶と
重なっているのではないか…。
おそらく、もっとふるくは、ぬいぐるみや人形にそれを感じたことが
最初だろうけれど。

過去たちが集まって、それでも、私の一部になっている。




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