画面の中で、カメラは白球の軌跡を追っていた。白球がレフトスタンドに飛び込むと、スピーカーからは大歓声とアナウンサーの興奮した声が流れてきた。
「スリーランホームラン、延長１０回の表、均衡を破る大きな大きなホームランが出ました。マウンドで城西高校の長野君がうなだれています。」

「終わったな」
准一は、そうつぶやくと、甲子園の一回戦に関心を失ったように、漫画のページをめくりはじめた。

「長野もバッターが待ってるの分かっているのに、ストレート投げるからだよ」
准一に聞こえるように言ったが、准一はページをめくる手を止めなかった。僕たちの高校は、県大会の２回戦で城西高校に負けた。僕のカーブのサインに准一が首を振り、ストレートをスタンドに運ばれた。それが決勝点になった。

「なんで、毎日、俺んちに来るんだよ。准一の家の方が広いし、綺麗だろ」
「健の家の方が落ち着くんだよ。第２部室だって言ってただろ」
確かに、練習が早く終わった日や雨の日には、この部屋は部員のたまり場になっていた。

「甲子園見ながら、漫画読んで楽しいのかよ。准一だったら、いくらでも女子と遊びに行けるだろ。健全な男子高生しろよ」
「キャーキャー言っているのは、俺のことが好きなんじゃなくて、ピッチャーが好きなだけなんだよ。それに、寄ってくる女子と付き合うなんて、釣り堀で魚釣るようで面白くないだろ」

「知美ちゃんが来たわよ」母親が玄関で大きな声をあげた。
「おじゃましまーす」負けずに、知美が二階まで届く大きな声をあげ、階段を昇り、部屋の中に入ってきた。

「城西負けちゃったんだ。県大会負けなしだったのに、一回戦で負けちゃうんだね。うちのチームなんて８対０で負けたのにね。はい、ガリガリ君持ってきたわよ」当たり前だ。城西は県大会で優勝したから甲子園に行ったんだ。

「でも、良かった。昼間から二人でAV見てたら、どうしようかと思ったわ。まあ、他の部員と違って、あんた達は女子に興味がないもんね。野球と漫画ばっかり。小学生のときから成長してないわね」
「何しに来たんだよ。喧嘩売りにきたのか」

「違うわ。駅前にね、とんかつ屋さんがオープンして、サービス券もらったの。今日までなんだけど、こんなかわいい子が一人でとんかつ屋さんに行けないでしょ」
「どこに、かわいい子がいるって」
「ここよ、行くわよ。准ちゃんも漫画閉じてね」

つづく