ガリガリ君をかじりながら、駅前に向かって歩いた。
「なんで、トンカツ食う前に、アイス食べなきゃいけないんだよ」
准一は、毒づくと、食べ終えたアイスの棒を放り投げようとした。

「だめだめ、ポイ捨て禁止。出場停止になるわよ」
友美は、コンビニ袋を取り出すと、食べ終えたアイスの棒を受け取った。

うちの母親に言わせると、友美は理想のお嫁さんだ。気立てが良くて、みんなに好かれるし、一緒にいると場が和むらしい。決まって最後に、あんたでは無理ね。お父さんに似ちゃったからね。准一君だと美男美女でお似合いねという。

とんかつ屋に入り、准一は、おろしロースカツ定食を頼み、僕も同じものにした。友美は、一口ヒレカツ定食を頼んだ。
「准一と健は、いつも同じもの食べてるわね」
「健が俺のまねをするんだよ」
「悩むより、同じの頼んだ方が楽じゃん。それに准一のセンスいいし」

頼んでいた定食が運ばれてきた。一口ヒレカツ定食の皿には３個のカツが載ってたが、友美は、僕と准一の皿に一つずつ取り分けた。
「ゴチ、だけど一つだけでいいのか」
「野球部の、ううん、わが校のアイドルですからね。がまん、がまん。ガリガリ君を目指すわ」と友美はウエストに手をあてた。

「代わりに、レモンをもらうわよ。美肌にはビタミンCいいの」
「焼け石に水じゃないのか。グランド焼けで、すっかり小麦色ですけど」
准一がちゃちゃを入れた。友美がむすっとしたので、「僕たちが練習に集中できるのも、美人マネージャーのおかげです」とフォローした。

とんかつを食べ終え、明日から練習がはじまるので、それぞれの家に帰ることにした。准一と別れ、同じ方向の友美と一緒に歩いていた。
「さっきは、ありがとう。そういう優しいところが、健のいいところだと思うわ」
「選手だけで試合しているわけでないから、みんな、友美に感謝してるよ」
「わたし、応援するの好きだから。美肌のためにレモンが好きなんじゃないの。トンカツが美味しく食べるための脇役じゃない。そんな健気なところが好きなの。主役より、脇役を応援したくなるの」

「奇特だね。全国の脇役に希望がでるよ」
「健ってさ、そんなところが、ぴったりなの。私たち、付き合ったら、きっと上手くいくと思うんだけど、どうかな」

僕は、当惑をした。
友美は野球部のアイドルなのは間違いないし、それを鼻にかけるようなこともなく、部員が嫌がる部室の掃除も進んでしていた。可愛くて、性格もよくて...
人生で初めての告白を、これまでの人生で一番、素敵な女性から受けて、本当にどう答えていいのか分からなかった。反射的にいつもの自分が出た。

「俺、告白されて付き合うの好きじゃないんだ。釣り堀で魚釣るみたいだから。ごめん」

准一、これで良かったのか...