リーンリーン、電話が鳴る。
「もしもし、沖人です」
「後輩のNです」

「徹夜で運転をして眠いんだ。おまけに、15kmジョギングして、おかに上がった河童のように瀕死の状態なんだ。じゃあな」
「待ってください。自分の愚かさを見つめなおす旅はどうだったんですか」

「勝手に、『愚かさ』を追加するな。自分を見つめなおす旅だ」
「金曜の夜に出かける予定だったんじゃないですか」

「役に立たない気象庁の友人に空模様を聞いたら、土曜の夜に出かけろと言われたんだ」
「日曜日は日本晴れの快晴で、的確な助言じゃないですか」

「気象庁に文句はないんだ。役に立たないのは友人Sだ」
「何があったんですか」

「Aさんから、一人で子育てに奮闘中ですってメールが来たんだ」
「10年前に先輩が関連会社に出向していた時のバイトさんですね」

「それで、たまには、息抜きでもした方がいいだろうと、友人Sと一緒に、Aさんとお子さんをサッカー観戦に誘ったんだ」
「どうなったんですか」

「2日前に、Sがドタキャンの連絡をしてきたんだ。自分の子以外の子供は嫌いだ。面倒くさいと」
「ひどいですね。先輩なんて、子供どころか人間嫌いの二次元世界の住人なのに。で、どうなったんですか」

「小1と4歳の娘さんが、いっぱい話しかけてくれるんだ。同じクラスの太郎君は足が速いとか、次郎君は徒競走でこけたとか」
「先輩、女性に話しかけられることないですから、良かったですね」

「それが、ちびっこと同じクラスの太郎君や次郎君に全然興味がわかないんだ」
「Sさんと一緒じゃないですか」

「しまいには、僕のことは、ほったらかしにして、姉妹で鬼ごっこをはじめたよ」
「先輩、自分を見つめなおす旅から、脱線してますよ。そういえば、木曜日は旅の準備に新宿に行こうとしてたんじゃないですか」

「アウトドアショップに行こうと思ったんだ。おなかが減ったのでやめたけど」
「二コタの皆さんは、新宿で夜遊びをすると思ったんじゃないですか」

「僕は、そもそも、お酒を飲まないから、一人でそういうところには行かないし、京都のキャバクラでぼったくられたから、近づかないことにしてるんだ」
「どうなふうにぼったくられるんですか」

「お店に入るときは、飲み放題2時間4000円ですよと言われるんだ。そんなもんだと思うんだけど、その後、二人組の綺麗なお姉さんがやってきて、ウーロン茶いただいていいですか一杯1000円。ポッキー頼んでいいですか20本1000円、カラオケ歌っていいですか1曲500円と進んでいくんだ」
「普通じゃないですか」

「それが、最初はしかたないなと思うんだけど、15分ごとに別の綺麗なお姉さんがやってきて、ウーロン茶いいですかが、繰り返されるんだ。しかも、15分毎に、出張ですか、東京からですかと、同じ会話が繰り返されるんだ」
「無限地獄ですね。財布にとっても。お店出ればいいんじゃないですか」

「4人でお店に入ったんだが、中には、一次会で酔っぱらって、そんなお店でも喜んで、脱出計画の足を引っ張る奴がいるんだ」
「それと、自分を見つめなおす旅は関係があるんですか」

「関係ないけど、君が聞いたんだろ。思い出したら、京都のキャバクラに腹が立ってきた。続きは明日にする。じゃ」

ツーツーツー