Nicotto Town


哲学的な何か、あと心の病とか


戦争における人殺しの心理とは何か?

戦争における人殺しの心理学

戦場の兵士の心理が実証的に描かれていて、戦争のイメージが変わる。
著者は、米国陸軍中佐で、陸軍士官学校の教授。

戦争のことを考えるとき、人間の残虐さや暴力性にいかに歯止めをかけるかが問題だというふうに私たちは考える。
その前提には、兵士というのは、ほっておくと過剰に人を殺してしまうという先入観があるわけだが、著者のグロスマンは実証的な資料によって、戦場における兵士の心理は、その正反対だということを説明している。
戦争映画を見慣れた私たちは、敵が襲ってきたら兵士は当然自分の身を守るために発砲して敵を殺すのが当然だと思い込んでいる。
あるいは敵が襲ってこなくても、勝つために兵士は敵を殺すと思い込んでいる。
ところが、第二次世界大戦で意外な事実が判明した。
前線に並ぶ米軍兵士のうち、100人に15~20人しか武器を使っていなかったのだ。
「戦闘になれば誰だって人を殺す」というのは大きな誤りで、大多数の兵士は、自分の身を守るためにも、仲間の生命を守るためにでさえ、敵を殺そうとしなかったのだ。

戦場でよく見られる現象に、意図的に敵の上方への発砲があるとグロスマンは書いている。
上官が見張っているのでどうしても敵に発砲しなければならなくなった兵士たちのほとんどが、引き金は引くが的をわざと外して発砲する。
一応発砲しているので、上官には見分けがつかない。
南北戦争の激戦地で、一個中隊の敵と味方が、15歩しか離れていない距離から向かい合って一斉射撃をしても、一人の死傷者も出なかった。
さらに驚くべきことに、敵の頭上に発砲するどころか、発砲さえしない兵士が多数観察された。
それではなぜ、戦争で多数の死者が出たのか?

死者の多数は、銃撃による死者ではなく、砲撃による死者だそうだ。
ようするに戦場における兵士というのは、自分の命や仲間の命を守るためでさえ、敵を殺すのに躊躇するということだ。
第二次世界大戦中の米国陸軍航空隊のパイロットの1%が、敵の30~40%を撃墜した。
ほとんどのパイロットは1機も撃墜していないどころか、撃とうとさえしていなかったのだ。
これらの結果から、アメリカ軍は重要な教訓を学んだ。
軍隊の課題とは、兵士の過剰な暴力を制御することではなく、撃たなければならないときでさえ撃とうとしない兵士の殺人に対する抵抗感を克服すること。

国連の平和部隊は、ヘルメットではなく、ベレー帽をかぶっている。
「どうして安全なヘルメットをかぶらないのだろう」と不思議に思っていたが、ベレー帽は兵士の顔が見えるので、敵に殺人に対する抵抗感を引き出すことができるそうだ。
湾岸戦争あたりから、アメリカ軍は巡航ミサイルの大量投入で決着をつけようとしたのも、顔が見えない砲撃なら殺人に対する抵抗感を薄めることができるからだ。
グロスマンによれば銃撃戦で殺人が行われるのは、銃撃戦の最中ではなく、銃撃戦が終わって、敵が背中を向けて逃げ出した後だそうだ。
敵に背中を向けると顔が見えなくなるので、殺人が行われやすい。
もう1つは、追跡本能だそうで、背中を向けられると追跡する本能が刺激される。
この本によれば、拉致や誘拐されたとき、犠牲者がフードをかぶせられると殺される確率が高くなるそうで、テロリストでさえ、顔を見ながら殺すのは抵抗があるのだろう。

戦闘中の兵士とって、敵への憎しみや恐怖、あるいは戦争の大義は、敵への発砲の心理的要因にならないそうだ。
私たちは、憎しみや自分たちのイデオロギーの正しさによって、兵士は戦っていると想像しがちだが、多くの研究はちがう答えを出している。
戦闘の心理的要因は、戦友への気遣い、指揮官への敬意、周囲からどう思われるかという集団の圧力と心理。
そういうのがなくても、戦える兵士は全体の2%しかいないらしい(彼らのことを攻撃的精神病質者というそうである)。

グロスマンは虐殺行為の心理について、まさに集団の圧力が悪用されたときに起こると書いている。
指揮官の中には、集団の結束力を強くするため、部下に虐殺を強制する例もあるのだ。
グロスマンは虐殺に参加した兵士たちが、いかに大きな心理的代償を支払わなければいけないか、虐殺が味方の結束力だけでなく、敵の結束力まで強くしてしまい双方の損害が大きくなってしまうことなどを実例を上げて説明している。

兵士の殺人に対する強い抵抗感、人を殺した後の強いトラウマは、兵士に大きな心的外傷を与える。
これを少しでも和らげる手段の1つが、集団への帰属意識と貢献の認知。
勲章とはその1つ。
社会全体が、兵士に名誉を与えて暖かく受容することによって、殺人のトラウマを弱めてあげる。
グロスマンは兵士が正当な理由で敵を殺したときでさえ、どんなにトラウマに苦しむかを詳しく書いている。
アメリカでは、決して兵士を批判することはしない。
これはベトナム戦争の苦い教訓なのだ。
当時ベトナム戦争から帰還した兵士たちは、本国で平和運動家たちの激しい非難に直面し、「人殺し」呼ばわりされたのだが、これも兵士は人を殺したがるものだという誤った誤解から生まれた悲劇だ。
ただでさえ、殺人の罪悪感に苦しんでいるのに、帰国したら賞賛どころか非難の大合唱で、大量のベトナム帰還兵士が、社会的不適応者になって大問題に。




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.