Nicotto Town



の足軽雑兵の娘であ

科咦笮l門の頭に玄蕃允の拳骨が落とされる。
「法螺ばっかり吹きやがって。来いっ! その腐った性根、叩き直してやる!」
 襟首を掴まれ引きずられていった七左衛門の姿に、すえはきゃっきゃと笑い立てた。
「おかしい人。本当にお前様の御主人様なの?」
 すえの問いに栗綱はぼんやりとしているだけである。
「お前様はおとなしい子だねえ。クロスケと一緒に遊ばないの?」
 そのクロスケははしゃぎ疲れてしまったらしく、川面に鼻面を突っ込んで水を舐めている。左衛門太郎が「クロ」と呼びかけると、黒連雀は頭を上げてじっと太郎を見つめ、やがて首を上下に振り始めながら、ちゃかちゃかと太郎に歩み寄っていく。
「お前様たちの御主人様はあのお侍さんなの?」
「違うよ」
 と、言ったのは栗綱ではない。どこからかやって来た栗之介であった。摘んできた草を手にしている。それに首を伸ばしてむしゃむしゃと食べ始めた栗綱の鼻面を撫でながら、栗之介は言う。
「クロの主人は若だけど、こいつの主人は簗田牛太郎だ」
「誰?」
「お前の父ちゃんの主人だ」
「あんたは?」
「俺は栗之介だ」
 掌の草を食べ尽くした栗綱が、鼻面を栗之介の胸元にぐいぐいと押し付けて、もっと寄越せとねだってくる。
 川岸では七左衛門が槍に見立てた棒で玄蕃允と向かい合わせられており、呆気なくやられた。
「この子はいくつなの?」
「や、八っつだ」
 と、栗綱にぐいぐいと押し込まれながら栗之介は言う。
「もう、いい齢だよ。なのに、子供みてえなんだもんな」
 ぱかぱかと黒連雀が馬上に太郎を乗せて歩み寄ってきた。手綱を軽く絞られると、若干嫌気を差すようにして首を大きく振るものの、
「こらっ」
 と、たしなめられて、鼻を鳴らしながらようやく制止する。
 栗綱が押し相撲をやめた。弟の黒連雀をじっと見つめる。自分たちが兄弟と理解しているのかどうか、仲が良いのか悪いのか、二頭の馬はしばらくじっと見つめ合ったあと、お互いぷいと顔を背けてしまう。
 人間がするような仕草に、すえがはしゃいだ。
「お主、馬が好きか」
 馬上からの太郎の言葉に、すえは声を止めてきょとんとした。
「す、すえっ」
 娘が付いて来ていたことにようやく気付いた弥次右衛門が駆け寄ってきて、すえのばさばさの頭に掴みかかると、無理やり頭を押し下げた。
「も、申し訳ねえっ。こいつは頭が悪くて駄目なんだっ」
「いやあっ。いやあっ」
 すえが弥次右衛門の腕にがぶりと噛みつき、騒ぎ立てた父親を尻目に逃げ出すと、そのまま姿を消した。弥次右衛門がすえに噛みつかれた跡を握り締め、顔をしかめながら、
「あ、あいつのことは気にしねえでくろ」
 太郎は表情なく弥次右衛門を見下ろす。やがて、赤黒縞の鞭を取り出すと、いきり始めた黒連雀をなだめながら、
「一回りしてくる。先に戻っていなさい」
 鞭をびゅうっと鳴らして、黒連雀は一気に跳ねて駆けていった。
 一行は稲葉山の屋敷に向かう。もうすでに於松は消えてしまっている。玄蕃允を先頭にして、新参者の三人は槍や棒を担がされる。ぼろぼろにされてしまった七左衛門は、睡魔も手伝って、首をぐったりと垂らしながらだった。屋敷に辿り着くと、庭先で真っ先に倒れ込んでしまう。
「だらしないなあ、兄さん」
 と、治郎助にまで嘲られる有様。七左衛門には返す気力も残っていない。
「お風呂が上がってますよ。汗を流して、朝食にしましょう」
 縁側からの声に目だけを向ける。左衛門太郎の女房のあいり。子を産んだせいかふっくらとしていて、鬼梓のような美女でもないが、それでも武士の女房として華がある。
 左衛門太郎が下賤な町娘の子で、あいりが明智庄の足軽雑兵の娘であるの 




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