Nicotto Town



なたのことをとても好

励む時間のせいか、道には人通りがなく、ここを通っていくのは風だけだった。湿り気のある夕風は、野原に群れる草をさあっと音を立ててなびかせながら、海の方角へと流れていく。それは、光を浴びるととても美しく輝いた。  光の色に染まった夕風は、道の向こうに広がる緑の葉先に美しいさざ波を起こしながら、野原の上を吹き渡っていく。 「きれいね、風が――」  想ったままをつぶやいた。すると、高比古から返ってきたのは、妙に張りつめた声だった。 「そうか? ――妖しいよ。何か、困ってる……」 「困ってる?」  意味がわからなくて、高比古の顔を振り仰ぐ。高比古は、すぐに目を逸らした。 http://www.zhiyugnbao.com 「なんでもないよ」  高比古がいった言葉の意味はわからないが、わからない理由だけはわかった。  それは、彼が事代(ことしろ)だからだ。  高比古は、事代たちの中でも類い稀な力に恵まれているという。そのせいで、人の目や耳では感じにくいものが、視えたり聴こえたりしているのだ。 豊岡 かばん 人気財布ブランド (今のも、そうなのかな?)  納得すると、狭霧はそれ以上問うのをやめることにした。 「あんたに話すべきかどうかも、よくわからないんだが――。でも、あんたくらいしか、話せる人がいない」  そういって、横顔を向けた高比古は、片膝を抱えてため息をついている。 「どうしたの? 内緒にしてほしい話だったら内緒にするよ?」 「実は、心依のことなんだが……どうすればいいと思う?」 「どうって?」  今の会話だけではわからない。でも、彼が悩んでいることはわかった。  ……平気? 大丈夫? わたしでよければ話を聞くから――。  本当に大丈夫だよ、誰にもいわないから。役に立てるなら――。  狭霧は、高比古の横顔をじっと見つめた。  しばらくして、高比古は様子を窺うように狭霧を見たが、その後で、安堵したように口元をほころばせる。それから、ある時吹き出して、肩を揺らして笑った。 「あんたって――。そんなに人の心配ばかりをしていたら、疲れないか?」 「わたし、そんなじゃ……」 「変なことをいったな。ただ、おれにはできないってだけで、普通はそうなのかもな。おれには、誰かの面倒をみる余裕がないから」  いつかのように馬鹿にされるようではなかったが、その言葉もよくわからない。  高比古がそれ以上その話を続けることはなく、しばらく黙ると、肩でふうと息をした。 「あのさ――あの子は、いい子だよな……」  高比古が話しているのは、彼の妻となった姫君のことだ。しかし――。  心依姫は、嫁いだばかりとはいえ、夫に惚れ込んでいるようだった。 『わかるんです。あの方は、とてもお優しい方――。お心が広くて、それに、兄様は容貌(かおだち)が麗しくて、凛々しくて……!』  そういって、頬を赤らめもしていた。  でも、高比古のほうはそうでもないといいたげだ。少なくとも、心依姫が前に狭霧に見せた可憐な気配は、彼になかった。  狭霧は、ほんの少し眉をひそめた。 「そうだね。心依姫は、あなたのことをとても好きね」 「ああ、それで困ってる」 「困るって?」 「――応え方がわからない。わかってやれないことがつらくて、申し訳ない」 「応え方がわからないって? もしかして、心依姫のことを好きになれないっていうこと?」 「それって、なろうとすればできるものなのか?」  高比古は、狭霧を覗きこんでじっと目を合わせてくる。それから、口の渇きを嘆くように小さく唇を動かした。 「わからないよ、そんなの」  狭霧は、色恋について語れるほど、それに長けているわけではない。  で




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