Nicotto Town



水を溜めない

?

 そうかと思えば、狭霧の目の奥には、異国の若王の顔が蘇る。

 水を溜めない白砂の農地を前にしてため息をついていたその人の横顔も、頭にくっきりと浮かんだ。

『国を守るものは戦だけか? 俺はそうじゃないと思う。前に狭霧を農地に連れていっただろう? あの土を豊かな農地に変える方法が見つかれば、同じ土に苦しんでいる薩摩にも、大隅にも、それを伝えてやることができる。そうすれば、きっと――』

(火悉海(ほつみ)様……)

 狭霧を自分のそばに引きとめようとした彼の指の力強さも、それに掴まれた手首ははっきり覚えていた。

(そういえば、出雲の水路をつくる技って、ほかの国より上なのかな。もしそうなら、水路をつくる技をもつ人を阿多へ遣わせば、火悉海様のお役に立てるかな。そうしたら、出雲と阿多の繋がりは今よりも深くなるかな――。今度、誰かに聞いてみよう。でも、こんなことを聞いて教えてくれる人って、誰だろう)

 そう考えて、ふっと頭に浮かんだのは、やはり青年の顔だった。深い袖のある優雅な衣装に身を包んで人懐っこく笑う、越(こし)という異国の若王。

(真浪(まなみ)様……)



<a href="http://www.cnbaiw.com" title="http://www.cnbaiw.com">http://www.cnbaiw.com</a>


 その人のことを思い出すなり、狭霧の目はえんえんと続く緑の畑を越えて、山の向こうをたどった。

(そういえば杵築には、越の人がたくさん移り住んでいる里があったっけ。今度戻った時にいってみて、そこで聞いたらわかるかな)

 覚えなくちゃいけないことが、まだたくさんある。

 いったことがない場所も、知らないことも、たくさん――。

 彼方の風景に見入った狭霧に、多伎は呆れたふうに笑った。

「どうしました。ぼんやりなさって」<a href="http://www.cnbaiw.com/キャップ-155-2.html" title="帽子 キャップ">帽子 ニューエラ</a>
<a href="http://www.cnbaiw.com/メンズハット-155-1.html" title="キャップ 帽子">ニューエラ 大阪</a>

 いつのまにか、狭霧は馬の歩みまで止めていた。狭霧に合わせて、警護の武人も多伎も、手綱を操ってその場で待っていた。

 それに気づくと、狭霧ははっとして謝った。

「すみません、つい。水路がとてもきれいだったので……」

「水路が?」

「はい。なんていうか、川や海もきれいだけど、水路もとてもきれいですよね。水路は、人が暮らす場所をつくって、人の笑顔もつくっている気がするんです。だから……」

 はにかみながら思ったままを素直に告げると、多伎は苦笑した。

「前に、須佐乃男様もここでこの景色を見て、同じことをおっしゃっていましたよ」

「おじいさまが?」

 目をしばたかせる狭霧に、多伎はくすぐったそうに肩を揺らした。

「前に僕が、彦名様の命を受けて、賢王を朝酌の里へご案内した時でした。その時の賢王のお言葉は、僕はいまでも覚えています」

 そういうと、深く息を吸ってから、多伎は朗々といった。

「『この水の流れをごらん、これほど簡潔に物事を表すものは他にない。山から海へと流れゆく水が、長い時をかけて大地をうがったものが川だが、その造りを人はうまく真似て、田畑を潤す水路を掘り、土手をつくり、港へ船を運ぶ運河をつくるのだ。自然のままの水辺も美しいが、人のために仕上がった水辺もまた、美しいよなあ』。……以上、須佐乃男様、談です」

 冗談をいうように多伎が締めくくると、狭霧には、止められそうにない笑いがむず痒くこみ上げた。

「人のために仕上がった水辺もまた美しい、か。おじいさまが、そんなことを――」

 しみじみとつぶやく狭霧に、多伎はくすくすと笑った。

「水路に魅せられたのなら、あなたも、須佐乃男様と同じ道をいかれるかもしれませんね。あるいは、あなたが次の賢王と呼ばれる日が来るとか……」

「大げさですよ、そんなんじゃないです。わたしは、おじいさまみたいにきちんと考えられないけれど、ただ、この景色はきれいじゃないですか」

「 




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.