Nicotto Town



わせるのではないかと

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 問題は長篠の戦いがいつなのかということで、実は上総介に全権を与えられた自分が武田軍と織田軍を長篠で引き合わせるのではないかと、牛太郎は考えた。
 しかし、どうやって。
 すべての経験が無いに等しい。織田軍は鉄砲隊を主とした戦いを今まで行ってきていない。過去には三段撃ち、三段撃ち、と、馬鹿の一つ覚えのように連呼していた牛太郎だが、金ヶ崎の退き口で沓掛勢が朝倉勢の大軍に飲み込まれてしまったのを目の当たりして以来、火縄銃が戦場でさほど活躍できるとは思えなくなっていた。
 だが、対武田を上総介に委任され、徳栄軒及び山県三郎兵衛尉に苦渋を舐めさせ続けられてきた牛太郎は、これは簗田牛太郎冥利に尽きると思い、瞳には熱を、手には拳を握り締め、すっくと腰を持ち上げた。
 ひとまず、長篠に行ってみるしかない。どうするかはそれからだ。
「えらい役目を仰せつけられましたね」
 部屋を出ると、長谷川藤五郎が待ち構えていた。
「おやかた様は京の帝の元へ向かうそうですから、てっきり、オヤジ殿も連れていくために呼び出したのだと思っていましたよ」
「天皇陛下に会いに行くのに、信長様がおれを連れていくわけねえじゃんか」
「いやいや、それが、東大寺に納められている天下随一の香木、蘭奢待の切り取りの勅を所望するためとかで。オヤジ殿が香木に興じられているのはおやかた様も耳にしていますからね」
「よ、よくわかんねえけど、知っているの? おれが香木を漁っていることを」
「知る人は知っていますよ」
 にんまりと笑みを浮かべた藤五郎から逃げ去るようにして城を下り、稲葉山麓の我が家に帰ると、於松を呼びつけた。いや、於松は先回りしていて、すでに部屋の窓の外にいた。
「三河に行くぞ」
「三河、ですかい?」
「家の連中には信長様の上洛に付いて行くとだけ言っておく。三河にはお前と新三の三人だけで行く。栗綱もいらない。歩きだ」
「それはどうして。まだ、旦那様にはこたえるんじゃねえんですか」
「黙って言うことを聞いてろ。新三にも京に行くから準備をしとけって言ってこい」
「へえへえ」
 障子窓を隔ててそんなやり取りをしたあと、牛太郎は素襖を脱ぎ、半纏と股引を身に着けた。脱いだ着物と太刀、脇差は荷物にまとめる。
 武田の忍びを警戒してのことだった。
 いつぞや、さゆりが言っていた。武田の忍びは格闘には長じていないが、諜報には図抜けている。岐阜城下でも何者かに化けて必ずや徘徊しているであろう。
 こちらの動きが筒抜けでは何もならない。
 夕飯になると、牛太郎は家の者たちに説明した。上総介の上洛に先立って、京の朝廷に働きかけることになったから、今夜にでも早速、岐阜を立つ、と。
「父上が朝廷に?」
 明らかに牛太郎の柄ではないことなので太郎が怪しんだが、牛太郎は今までも何度か働きかけたのだと嘘に嘘を塗り重ねて突っぱねた。
「だったら、俺たちも連れていってくださいよ」
 七左衛門が不服そうであった。
「お前らは岐阜に残っていろ。いつ、いくさになるかわからねえんだから。それまで英気を養っておけ。格さん助さんには期待しているんだからよ」
 心にもない牛太郎の言葉に、七左衛門は笑みを浮かべ、おとなしく引き下がった。
 とはいえ、太郎には言っておくべきかと考え直す。家中の将たちと分け隔てなく顔を合わせられる侍大将の太郎なのだから、朝廷に働きかけなどしていないことは、すぐにわかってしまう。
「太郎。お前だけには言っておく。おれは信長様から武田をどうにかしろって言われた。だから、とりあえず三河に行く」
 自室に呼んだ太郎にそう伝え、三河行きの秘匿の理由も説明すると、
「 




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