Nicotto Town



次は歯を抜いていくぞ

吐かなければ、次は歯を抜いていくぞ」
 梅雪の言葉に、それまでは笑うだけだった強右衛門も、苦悶に表情を歪めて、呻き上げるのが精一杯であった。
「やめんか」
 小粒な目をしたふっくらとした将が陣幕の中へ入ってきた。伝令を聞いてやって来たのは、徳栄軒の弟で一門衆の筆頭である武田逍遥軒であった。
「一度、吐かぬと決心した者は、どれだけ問い詰めたとしても吐かぬ」
 強右衛門は指先の痛みを、唇を噛み千切ってまぎわらせながら、逍遥軒を睨み上げた。
「おおかた、岡崎か浜松に窮状を訴えに出たのだろう。違うか?」
「へっ。あんたらは終わりだよ。明日にでも織田様の四万の兵がここに来るんだ。わしを煮ようが焼こうが、どちらにしたってあんたらは負けなんだ」
 武田の兵卒たちはざわめいた。逍遥軒と梅雪は顔を見合わせた。
「若殿に報せますか」
「よい。黙っておけ。ただし、馬場美濃と修理には伝えろ。攻城を再開せよと」
「御意」
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「おい、三河者。見たところ、お主はどうせ足軽雑兵であろう。わしの言うことを聞けば、命を救ってやるどころか、わしの麾下にて足軽大将に迎えてやる。禄も弾ませる。どうだ、聞かんか」
 強右衛門は無言で逍遥軒を見つめた。
「この雨では火縄銃も使えんだろう。馬場美濃と修理が一気に攻めかければ、長篠城は日暮れ前にでも落ちる。どうせ、お主は死ぬのだ。だったら、生き残って武田に仕えよ。お主には妻子もおるのだろう?」
 齢の通った男らしい、柔らかく甘い声音であった。
「悪いけど、わしはこれでも三河武者の端くれだ。仲間を裏切るような真似はできねえぜ」
「裏切るのではない。ただ一言、伝えればいいのだ。援軍は来ないと」
「馬鹿言っちゃいけませんよ、大将殿」
「よく考えてみろ。無駄な血を流すのか? 馬場美濃と修理は武田の精鋭であるぞ。お主らの兵力はどのくらいだ。しかも、頼みの火縄銃も使えんではないか。お主はその三河武者の意地とやらで、同輩たちをむざむざと殺していくのか? 妻子があるのはお主だけではあるまい。お主の同輩たちも妻子があろう」
 逍遥軒はなおもべらべらと続けた。そもそも、いくさとは将と将、大名と大名の戦いであって、それに扱われている足軽兵卒たちの命はなんら関係ない、とか、仏はどうとか、武者とは意地や誇りではなくかくあるべきだとか、強右衛門にはなんのことだかわからなかった。
 ただ、逍遥軒の饒舌を聞いているうち、ふと思った。
 こいつら、何を焦っているんだろう、と。
 実は、言うほど、自分たちの攻城に確信を持てていないのではないか。
 このとき、強右衛門は生まれて初めて企みを閃かせた。どちらにせよ、殺されるのなら、末代までの栄誉を得て死のう。
「わかった。でも、本当に足軽大将にしてくれるんだろうな」
 逍遥軒はうっすらと笑った。
「男に二言はない」
一世一代の大音声

 織田勢三万、徳川勢八千の大軍が、三河岡崎から出陣した。
 織田の兵卒は一人一人が木材を背負い込み、来たる設楽ヶ原決戦に向けて、万端を尽くした。
 しかし、
「止みそうにもないな」
 栗綱に跨ろうとしていた牛太郎は、雨空を仰ぎ見て眉根に皺を寄せた。
 すでに先陣が岡崎を出てからだいぶ時間を経ている。太郎はすでに黒連雀に跨っており、玄蕃允も、新七郎も、馬上にあった。具足をまとった弥次右衛門が牛太郎の火縄銃を手にしており、宿屋兄弟、利兵衛、それに篠木於松も佐久間右衛門尉のもとから戻ってきていて、牛太郎の騎乗を待っていた。
「旦那」
 陣笠の庇から雨滴を垂らしつつ、栗之介が促してきた。牛太郎はまだ頭上を見つめている。
「父上、そう悠長にはしていられません」
 太郎に言われて、牛太郎は




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