Nicotto Town



日が昇る

「今の五時の下りでお客がなかったわね。宿の人はまだまだ起きないわ」 
         
           帯を結びおわってからも、女は立ったり坐ったり、そうしてまた窓の法ばかり見て歩き廻った。それは夜行動物が朝を恐れて、いらいら歩き廻るような落ち着きのなさだった。妖しい野性がたかぶって繰るさまであった。 

         
           そうするうちに部屋のなかまで明るんで来たか、女の赤い頬が目立ってきた。島村は驚くばかりあざやかな赤い色に見とれて、 
         
           「頬っぺたが真赤じゃないか、寒くて」 
         
           「寒いじゃないわ。白粉を落したからよ。私は寝床へ入るとすぐ、足の先までぽっぽして来るの」と、枕もとの鏡台に向って、 
         
           「とうとう明るくなってしまったわ。帰りますわ」 
         
           島村はその方を見て、ひょっと首を縮みた。鏡の奥が真っ白に光っているのは雪である。その雪のなかに女の真赤な頬が浮んでいる。なんともいえぬ清潔な美しさであった。 

         
           もう日が昇るのか、鏡の雪は冷たく燃えるような輝きを増して来た。それにつれて雪に浮ぶ女の髪もあざやかな紫光りの黒を強めた。 

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2013/08/13 17:09

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