Nicotto Town



吹き飛ばされた

「対空戦闘ッ!」
 岩渕はともかく敵機を迎撃する事にした。
 兵達は急いでそれぞれの配置に向かって走る。しかし、甲板へ出るはずの兵はまだ艦内に待機していた。なぜなら――
「主砲三式弾装填!」
 そう。戦艦の最大攻撃力である主砲が発射されるからだ。主砲の爆風は甲板に出た兵達にも被害が出るので、甲板兵達は主砲発射が終わるまで艦内で待機していなければならないのだ。
 そして、主砲の旋回と砲弾の装填が終わり、砲身は確実に敵機を睨み付けていた。
 岩渕はそれを確認し、戦艦の艦長として最も勇ましい命令を発した。
「主砲発射!」
 刹那、『霧島』の三五?六cm砲四基八門全部が火を噴き、爆発音と爆風が蒼き海に響き渡った。さらに後方から『比叡』も砲撃を始め、両艦は黒い煙に包まれた。
 そして、『比叡』『霧島』の二隻から放たれた十六発の砲弾は敵機の上空で炸裂。巨大な大輪花を咲かせ、敵機は次々に墜落する。
 時限信管で目標空域で炸裂。焼夷粒子と砲弾の破片をバラ撒いて敵機を撃ち落す日本海軍独自の対空砲弾――三式弾だ。
『敵機! 三式弾を物ともせずに突っ込んでくる!』
「次弾装填急げッ!」
 霧島は依然突撃してくる敵機を睨みつける。上方に急降下爆撃機、水平線に水平攻撃機、その前方には戦闘機という基本編成の攻撃隊だった。
 霧島は空母護衛で何度も見てきた光景に悔しそうに唇を噛む。
「艦隊直衛の戦闘機さえいれば、なんとかできるのに」
 機動部隊護衛の時には必ず零戦が上空を守ってくれていた。だが、今回の作戦には空母はなく、護衛戦闘機もない。
 護衛戦闘機のない裸の艦隊は敵機の攻撃にとても弱い。それはマレー沖海戦以降の世界海軍の常識となっており、改めて戦闘機の重要性を再認識する。
『次弾装填完了!』
 伝声管から砲術長の声が響き、岩渕はしっかりとうなずいた。
「主砲発射!」
 岩渕の命令が伝声管を震わせた刹那、再び爆音が響き渡り、『霧島』、続いて『比叡』の主砲が唸る。さらに直掩の軽巡洋艦からも三式弾が発射され、敵機に焼夷粒子の嵐が吹き荒れた。だが、敵機はその数の三割を失っても突撃をやめず、さらには散開を始めた。これで三式弾はもう使えない。三式弾は敵機が密集しているからこそその威力を何倍にも増幅できるのだ。散開されてしまったらそれもできなくなる。
「機銃兵配置に付けッ!」
 岩渕の声が艦内中に響き、甲板のドアが次々に開かれて機銃?高角砲の兵達が各々の配置に向かって走っていくのが見えた。
『第二七駆逐隊対空戦闘開始しました!』
 艦隊の左端にいる第二七駆逐隊が主砲や機銃を乱射し始めた。それに呼応して他の駆逐隊も攻撃を開始する。
 敵機はすさまじい弾幕の中を犠牲を出しながらも突進して来る。それは何度も見て来たが、何度経験しても慣れる事のない恐怖だ。
 そして、敵機は激しい対空砲火の防空網を突破し、ついに第十一戦隊――『比叡』『霧島』の上空にまで達した。その瞬間、敵急降下爆撃機が一斉に機体を捻らせて急降下して来た。
『敵機直上! 急降下!』
 見張り兵がこれまでにない程の絶叫を艦橋に響かせる。
「取舵いっぱぁぁぁいッ!」
 岩渕は迫る敵機を睨み回避命令を叫んだ。その命令に『霧島』は急いで左に曲がる。
 艦のまわりに白い水柱が何本も高く上がり、吹き飛ばされた海水が雨のように『霧島』に降り注ぐ。
 主砲の代わりに機銃や高角砲が唸り、迫る敵機を次々に撃墜していく。さらに副砲も対空砲弾を使って敵機に応戦する。今や『霧島』の艦中から火が噴き、全方位にすさまじい弾幕を張る。だが、それが仇となった。敵機はすさまじく全力で応戦しながら逃げ回る『霧島』を諦め、速度が遅く対空




Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.