Nicotto Town



色にあせた瞳

しも、飢えに苦しむこの状況で一向衆が蜂起してしまったら、堀江親子がどう転ぶかわからない。
 なにしろ、堀江親子はただでさえ不満を持っている。
 一向衆から寝返り、織田侵攻軍に大勝をもたらした彼らに与えられた所領は、この加賀大聖寺なのである。しかし、堀江親子は簗田家の与力となった。つまり、大聖寺の所領を与えられたと言っても、居城には見ず知らずの主人である右近大夫に居座られてしまっており、ましてや、簗田家の与力である以上、加賀一国切り取れど切り取れど、それは簗田家の領地になってしまうのである。
 裏切りを繰り返す小悪党ごときに、織田軍からすれば当然の処置なのだが、太郎にこの親子を御せるかどうか。
 しかも、この状況で。
「大石殿」
 弥八郎は顔を上げた。
「ただただ座っていても始まりませぬ。北ノ庄に赴き、柴田殿に直談判してみては」
「ならん」
 と、太郎は一蹴した。<a href="http://www.watchsroad.com" title="http://www.watchsroad.com">http://www.watchsroad.com</a>
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「催促はしている。それなのに直談判などしてしまえば、叔父上の怒りをかう。何かしら事情があるのだ。あまりせっつくと、いやらしく思われる」
「背に腹は代えられませんぞ、右近殿」
 弥八郎がそう言って詰め寄るも、太郎は首を振って聞かない。
 左衛門三郎が溜め息をついた。
「まさか、このような事態に巻き込まれるとは思いもしませんでしたな」
 皮肉たっぷりに苦笑した彼は、腰を上げて広間から去っていってしまった。
 
 大聖寺城内に築かれてある居館に戻ってきた左衛門三郎は、さっそく、父親の中務丞に簗田郎党たちの沈鬱な様子を報告した。
「一に事情、二に事情、三四がなくて、五に事情ってか」
 中務丞は欠けた歯を剥きながら、ひょうひょうと笑った。左目尻に大きなしみがあって、愉快そうに皺まみれに笑っても、どこか、貪狼な気配を漂わせている。
「父上」
 と、左衛門三郎は父親をたしなめる。
「笑っている場合ですか。このままでは拙者どもも右近とともに心中ですぞ」
 中務丞は口を開けたまま、笑いをやめた。茶色にあせた瞳を宙にぽかんと置いて、とぼけている。寝返りを繰り返してきたこの男は、実の息子であろうとも容易に胸の内を明かさない妖怪であった。
「なにゆえだあ」
 ぎょろりと目玉を広げ、顔を寄せてくる。左衛門三郎は溜め息をついた。すると、中務丞はげらげらと笑い立てた。
「くだらんわい。食い物なんぞ領内村々から略奪すればよかろうに」
「何をおっしゃっているのですか。織田の兵卒は乱暴狼藉ご法度ですぞ。中でも右近大夫は清廉な男ゆえ、略奪なぞもっての他です」
「すればよかろう」
「だから」
「三郎っ!」
 一喝するままに、くわ、と、瞳孔を広げた中務丞は、息子を飲み込まんばかりににじり寄り、そして、優しくささやいた。
「お主、何も見えておらんの。ん?」
 奸物であった。もし、北陸の雪に閉ざされていなかったら、それなりの悪名を轟かせたに違いない。彼はときに丁稚のように腰を低くして手を揉むし、ときには修羅のごとく人を撫で斬るし、ときには好々爺のように笑い立てる。しかし、それはすべて仮面である。中務丞の芯とは蛇の体躯のようなのである。信念とか矜持とか、そんなものは彼には備わっていなく、心はいつもにょろにょろとうごめき、やがて、獲物を見据えたら、相手を射すくめ、その心に巻きつくのである。
 息子でさえ、父の浮遊する眼差しには息を呑んだ。
「刺激を与えてみんか。加賀の一向衆は即発だ」
「何をおっしゃっておるのです」
 ふふ、と、気色悪い笑みを浮かべながら、ゆらりと腰を上げた中務丞。刀箪笥から太刀を取ると、その鞘を抜き、己の目の前に突き立てて、綺麗に研ぎ澄まされた刀身をうっとりと眺める。
「危機は好機。三郎、




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