Nicotto Town



謙信であった

wばし、栗綱がそのままぶちかますと、牛太郎は振り上げていた朱槍を打ち落とす。もちろん、馬場美濃は難なくこれを受け止めるが、しかし、牛太郎が手にしている槍に目を奪われた。
「おのれえっ!」
 怒りの声を放ちながら、馬場美濃は牛太郎を弾き返す。牛太郎はよろめいて、あやうく落馬しそうになるが、両足を鐙に縛り付けていたおかげで難を逃れる。
「それは源四郎の槍ではないかっ! この不届き者があっ! 名を名乗れっ!」
 フン、と、牛太郎はつまらなそうに鼻を鳴らし、言う。
「簗田出羽守だ」<a href="http://www.watchsindustri.com" title="http://www.watchsindustri.com">http://www.watchsindustri.com</a>
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「なに?」
 とぐろを巻いていた怒りが、影に吸い込まれていく。馬場美濃は引立て烏帽子の男の研ぎ澄まされた瞳を見据える。
 一方で、玄蕃允が五人の兵卒たちに襲いかかっていた。黒連雀が猛獣のごとく暴れ回っていた。太郎が槍を払い抜き、新七郎が吠え立てる。
「お主があの二俣城の簗田か」
「お前らに殺されかけたあの簗田牛太郎だ」
 すると、馬場美濃は口端を緩め、小さく笑った。馬場美濃が、不死身の馬場美濃たるゆえんの獰猛さが、顔に刻まれた年輪のうちへとみるみるうちに溶けていく。
「お主、源四郎とともに生きるつもりか」
「笑わせんな、ジジイ。おれはいつだってあの馬鹿と生きてきたんだ。あの世に行ったら伝えとけ。生まれ変わってもおれの敵でいろってな」
「ハッ」
 と、馬場美濃は黄色い歯をあらわにして笑った。
 しかし、満面の笑みはすぐに苦悶の歪みへと変わった。七左衛門の槍が馬場美濃の脇口を貫いていた。
 血の雨が降る。馬場美濃は襲ってきた槍を掴むも、目玉を剥き出しながら呻き、腰を折っていく。
「覚悟おっ!」
 太郎が黒連雀とともに飛びかかってきて、伸ばした槍頭が馬場美濃の喉笛を的確に捉えた。鮮血が噴き出す。
「うおォっ!」
「終わりだ!」
 新七郎の槍が、玄蕃允の槍が、宙をさ迷う馬場美濃の意識へと容赦無くとどめを差した。
 もう、馬場美濃守信春はこの世にいない。抜け殻となったむくろだけが地上へと崩れ落ちていき、その指先も、その目も、血溜まりの中に固まった。
 静寂の夜空に星が瞬いている。
 牛太郎は厳しい目で亡骸を見つめた。今しがた笑っていた者が、ただの肉塊になっている。
「父上」
 牛太郎は手綱を引いて、栗綱の鼻面を来た道へと返した。
「帰るぞ」
「何を言っているのだ、オヤジ殿。大膳を追わずにどうするのだ」
「もういい。もう暗い。あとは滝川とかにやらせておけ」
 作戦策定から一年、三方ヶ原から二年、湯村山から八年。長きに渡った死闘は、ここに終わった。
設楽ヶ原の夢のあと

 岐阜城にて天下布武の印を掲げたころより始まった織田上総介信長の大事業であったが、畿内を制圧し、包囲網を打破してもなお、天下人の資格が尾張の片田舎より起こったこの出来星大名にあるのかどうか、この日まで人々は懐疑的であった。
 多分、織田軍の進む道が覇道であると信じて疑わなかったのは、当主の上総介一人であったかもしれない。
 年中働いている彼の家臣たちには天下を望む余裕などまるでなかったし、そもそも、応仁の乱以降百年も続いている群雄割拠の無法時代が終焉する見通しなどは、ほとんどの人間には立てられなかった。
 というのも、この畿内七道には、自称武士の暴力団が星の数ほど跋扈しており、彼らは日々縄張り争いに熱中している。それぞれの規模が大きかれ小さかれ、自分たちの繁栄もさることながら、まずは生存であらなければならない彼らは、暴力団の摂理として、自然と均衡を保っており、そうした均衡を破壊する者が奸雄だとか英雄だとかと呼ばれ、例えば古くは北条早雲だとか斎藤道三で、近いところだと武田信玄、上杉謙信であった。 




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