Nicotto Town



地図の片隅に③

今日は発注者、コンサル、ゼネコンを含めた全体会議がある。毎回のことながらとにかく荒れる。もう一度言うが、お金も工期も全然足りてない。我々ゼネコンからすれば発注者に関しては契約処理が遅い、コンサルに対しては図面が現場と合っていないなど言い分があるが、もはや工期と金を決めて契約した時点で言い訳ができないのが確かなのである。一方発注者からすれば想定外の出来事で計画と合わなくなってしまった予算内、工期内に動かなくてはならないし、コンサルに至ってはもはや竣工しているのにも関わらず呼ばれる始末である。あとは言ったとか言ってないとかとにかく大変な会議で予定時間2時間なのに4時間にのびたこともある。
「じゃあ今日はここまでですね。お疲れ様でした」
大量の懸案事項が書かれた紙を見ながら中川さんが会議を締めくくる。秋人は図面の冊子を抱えながら監督者が座る席へと駆け寄る。
「中川さん、施工上ここの鉄筋の継手位置を変更したいんですけど…」
「そうですか。じゃあ資料作って構造設計部に相談に行きましょう」
ふと中川さんの顔が厳しくなる。
「そういえば、この前現場を見に行ったとき型枠の中にお菓子のゴミとジュースの空き缶が捨ててあったんですよ。一応捨てておきましたけど」
「え…作業員かな。そうですか。すいませんでした」
秋人は頭を下げた。するとそれを見た中川は頼みますよと言って会議室から出て行った。

「いったい誰だろ?現場でお菓子食べる人なんていないよなぁ」
秋人は資料を入れた手提げを肩に預けながらほやく。
いつものように休憩所に入るとその答えが分かった。
「やぁ。食べる?」
「また入ってきたのか!ゴミ捨てたのも君か!」
休憩所のベンチに座ってお菓子を食べながら例の少女はくつろいでいる。
「ねぇ、頼むから現場に入るのやめてくれないかな」
「大丈夫だよ。誰にも見つからないからさ」
「そーゆー問題じゃないって…」
少女は困ったことに秋人のいうことを聞いてくれない。
「ところでその本は何?」
「ああ、これ図面だよ」
少女は製本された図面に興味を示した。
「ちょっと見せてよ」
秋人はあきらめたようにほらっと差し出す。
「全然わかんない。何これ?」
「要は”絵”だよ。この絵にかいてある通りにモノを作るんだよ」
「ふーん、あっ、そろそろ行かなきゃ。じゃあね!」
少女は立ち上がるとそのまま休憩所の外に駆けだしていった。
あっというまに距離を開けプレハブの角を曲がるとその姿を消した。
秋人は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

アバター
2017/03/09 05:52
おはようございます。
リアのお話かと思ったら、カテゴリが自作小説になっていましたね。
続きを楽しみにしています。
アバター
2016/10/15 10:36
現場は確かにビールの空き缶もありそう^^;
また現れた少女は何者なのでしょう...



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