Nicotto Town



地図の片隅に④

「集合!朝礼始めるぞ!」
大島さんの大声で作業員が整列する。それぞれ業者ごとに本日の作業内容と安全注意事項を述べていく。
「今日の注意事項だが、資材搬入時に第三者との接触に注意すること!」
最近ちょっとした事故を起こしたこともあってピリピリした空気が混じる。
「では本日も一日ご安全に!」
「ご安全に!」
大きな掛け声とともに朝礼が終わる。と、そこで秋人に大柄な人物が近づいてくる。
「おはよう!福ちゃん!元気してる?そうそう、今日の防水工なんだけどさ!」
この人は橋本さん。秋人と同じ年くらいだが、一つの工種を束ねる職長として現場を切り盛りしている。
「そういえばさ福ちゃん。今日防水するところなんだけどさ、誰かがコンクリ養生用の散水ホースで散水しちゃったみたいなんだよね。濡れてるとできないから予定変更するよ」
「えっそうなの?まあ工程には影響ないからいいけど」
誰だろう?今日の予定は事前に周知してるのに…

昼ごはんのあと秋人は現場の休憩所に向かった。いつものようにエメラルドマウンテンを買うとベンチに座りほっと息をつく。
休憩所からは構築している躯体がよく見える。
「ん?誰かが散水してる?休憩中にだれだろう?」
その人影をとらえると秋人は仰天する。
例の少女だ!
「ちょっとまった!こら!勝手に何やってんだ!」
「私だけじゃないよ。みんなやってるもん」
「だからそういう問題じゃないって」
っていうかなんでだれも気付かないんだ。
秋人はあわてて散水用ホースの栓を閉じる。
「だめだよ。勝手に現場のものに触れちゃ。ケガしてからじゃ遅いんだよ」
「心配しすぎだよ」
「そもそもここに入っちゃいけないんだよ」
「ねぇねぇ、このコンクリートの中はどうなってるの?」
やっぱり話を全然聞いてくれない。
「コンクリートはセメント、水、砂、砂利を混合させた石みたいなもんだよ。あと中には鉄筋ていう鉄の棒が入っている」
「へぇ~」
と、ここで秋人は我に返る。
「とにかく現場から出るよ」
少女とともに仮囲いの出入り口から出る。
「これあげるからもう入っちゃだめだよ」
さっき買ったコーヒーを差し出す。
「ありがとう」
少女は素直に受け取る。
「じゃあもう行くから」
秋人は現場へと戻っていった。

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