あの空
- カテゴリ:自作小説
- 2017/10/01 08:05:09
たいていのことは受け入れられるようになっていた。
というか、諦められるようになった。
昔は理不尽なことと戦っていたが、今ではどうでもよくなった。
嫌なこともすぐ忘れるし、時間が経てばいつも通りだった。
なんとなく惰性で生きているな。私は思った。
私は職場ではある程度の立場にあった。しかしながら、実際には何かあったときに頭を下げるのが主な仕事であり、それ以外は優秀な部下に任せていた。
日本の管理職なんてそんなものだ。社会のシステムに組み込まれ、模範的な社会人を演じる。そんな毎日に飽きてしまったが、独り身の私に仕事以外の選択肢はなかった。
だから、彼との出会いは鮮烈だった。
彼は、とある大学の准教授であり、いわゆるオカルトを研究していた。会社の研究開発部門が主催した懇親会で知り合った。
私服同然の格好、社会人にあるまじき長髪の彼になぜか興味を持ち、話しかけてみた。
彼はワインを片手に夢を語っていた。いつか世界の七不思議を解明してやるんだと豪語する彼は、まるで子供のような目をしていた。
そんな正反対の私たちが親しくなるのは時間がかからなかった。
初デートはディズニーだった。彼がどうしてもインディジョーズのアトラクションを体験したいと言ったからだ。
外出用の私服なんてほとんど持っていなかった私は、まるで少女のように悩んだのを覚えている。
また、私たちはお酒が好きでよく飲みに行った。
私はよく仕事の悩みを相談したが、最後には
「なんとかなるなる!」
の一言で片付けられてしまうことが多かった。
「もう!ちゃんと聞いてるの!」
そう言いながら、お互い笑いあった。
彼はよく海外へ行った。長いときは2ヶ月も平気で日本を離れるので、その時は私も機嫌を損ねた。部下に当たってしまうこともあった。
そして、嫌な予感はしていたが、やはり予想は当たった。
彼の論文が評価され、彼は海外の大学へかなりいい待遇で招待された。それは彼の夢への最短経路だった。
彼は今の大学に残ると言った。私は怒鳴りつけてやった。私に気を遣っているのが見え見えだったからだ。
私は海外になんて行けなかった。部下を路頭に迷わせてしまうわけにはいかないからだ。
最後の日、私たちは会話どころか、お互いの目を見ることもできないまま空港へ着いた。
私はやっぱりだめだった。
「ねぇ。夢と私どっちが大事なの?」
泣き出してしまった。
彼は優しく抱きしめ、
「僕と仕事どっちが大事?」
と言った。
「「いじわる…」」
最後は二人で笑いあった。
そして、私は彼の乗る飛行機が去って行った後もその空を見つめていた。
おわり
今は遠距離でも色々手段あるから、、
ハッピーエンドもありそう。
ずっと一緒にいられるのでは・・と思いました