Nicotto Town



あの空

たいていのことは受け入れられるようになっていた。

というか、諦められるようになった。

昔は理不尽なことと戦っていたが、今ではどうでもよくなった。

嫌なこともすぐ忘れるし、時間が経てばいつも通りだった。

なんとなく惰性で生きているな。私は思った。

私は職場ではある程度の立場にあった。しかしながら、実際には何かあったときに頭を下げるのが主な仕事であり、それ以外は優秀な部下に任せていた。

日本の管理職なんてそんなものだ。社会のシステムに組み込まれ、模範的な社会人を演じる。そんな毎日に飽きてしまったが、独り身の私に仕事以外の選択肢はなかった。

だから、彼との出会いは鮮烈だった。

彼は、とある大学の准教授であり、いわゆるオカルトを研究していた。会社の研究開発部門が主催した懇親会で知り合った。

私服同然の格好、社会人にあるまじき長髪の彼になぜか興味を持ち、話しかけてみた。

彼はワインを片手に夢を語っていた。いつか世界の七不思議を解明してやるんだと豪語する彼は、まるで子供のような目をしていた。

そんな正反対の私たちが親しくなるのは時間がかからなかった。

初デートはディズニーだった。彼がどうしてもインディジョーズのアトラクションを体験したいと言ったからだ。

外出用の私服なんてほとんど持っていなかった私は、まるで少女のように悩んだのを覚えている。

また、私たちはお酒が好きでよく飲みに行った。

私はよく仕事の悩みを相談したが、最後には
「なんとかなるなる!」
の一言で片付けられてしまうことが多かった。
「もう!ちゃんと聞いてるの!」
そう言いながら、お互い笑いあった。

彼はよく海外へ行った。長いときは2ヶ月も平気で日本を離れるので、その時は私も機嫌を損ねた。部下に当たってしまうこともあった。

そして、嫌な予感はしていたが、やはり予想は当たった。

彼の論文が評価され、彼は海外の大学へかなりいい待遇で招待された。それは彼の夢への最短経路だった。

彼は今の大学に残ると言った。私は怒鳴りつけてやった。私に気を遣っているのが見え見えだったからだ。

私は海外になんて行けなかった。部下を路頭に迷わせてしまうわけにはいかないからだ。

最後の日、私たちは会話どころか、お互いの目を見ることもできないまま空港へ着いた。

私はやっぱりだめだった。
「ねぇ。夢と私どっちが大事なの?」
泣き出してしまった。

彼は優しく抱きしめ、
「僕と仕事どっちが大事?」
と言った。

「「いじわる…」」
最後は二人で笑いあった。

そして、私は彼の乗る飛行機が去って行った後もその空を見つめていた。

おわり

アバター
2017/10/04 02:17
一人称の女性視点なんですねー。

今は遠距離でも色々手段あるから、、
ハッピーエンドもありそう。
アバター
2017/10/02 10:34
距離は離れてしまっても、心が支えあえるなら、
ずっと一緒にいられるのでは・・と思いました
アバター
2017/10/02 00:09
手に入れられないものほど惹かれますよね



Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.