Nicotto Town


ころんころん日記


青年の後姿が見えた気がした。

その日、私はいつものようにピグの音楽フロアにいて
好きなアメリカの女性歌手の曲ばかり流していました。
(詳しくは前回のブログにて)

そのフォークシンガーの名前はKath BLOOM といって
私もそんなに詳しくはないんですが、
昔、「恋人までの距離」という映画で彼女の曲が挿入歌として使われていて、
私は以来ずっと彼女の歌声が好きだったんです。
 
  
https://www.youtube.com/watch?v=UDhmnoBVYlQ


そのフロアには私1人と、お客さんの女性が1人。
その女性は外国人っぽくて、何度か拙い英語で話しかけましたが
彼女がベトナム人であること以外は何も分かりませんでした。

彼女が出て行く入れ替わりに、そこに1人の、これまた外国人らしき男性が入ってきました。
何故外国人らしき、かというと、彼のピグ名が「joe」だったこと、
そして彼の自己紹介欄が、日本語でもなく英語でもなく
何やらよく分からない文字で書かれてあったからです。

どうしよう?英語で話しかけようか?
一瞬躊躇いましたが、ピグの世界は幻想・幻影の世界です。
どんな見た目であろうとそれをそのまま信じてはいけません。
それを肌身で感じて知っていました。

だって、実は私も、その日は男性の格好をしていたんですね^^
ちょっと面白半分で男性ピグを作っていて、
その日はそれをたまたま使っていたのです。

そういう自分自身でもあったので、私はまずは日本語で彼に話しかけました。

「あの~、日本人の方ですか?」

「はい」

それだけ返ってきました。

良かったよ~、下手に英語で話しかけなくて、恥かくところだったよ~
などと内心思いながら、
では彼の自己紹介の文字はなんだろう?と疑問がわき、

「その自己紹介の文字は何語なんですか?」 と聞いてみました。

「フランス語です」

「へえ、フランス語できるんだ。すごいね」

一応、見た目男として私はそこにいるので、それっぽく喋りますw

「第二外国語でフランス語をとってるんです」


ほぅ。  ってことは、このピグさんは大学生なんだね…。
こういう場にはそぐわない、文系青年の香りが、
ピグを通して彼から伝わってきていました。


「何て書いてあるの?」

「フランスの詩を書いてます」


詩? 自己紹介の欄に? 俄然、興味がわいてきました。www

「どんな内容の詩?」

彼はためらったのか、少し時間をあけた後、
こうお知えてくれました。


「僕はただ1本の葦にすぎない。 だがそれで十分に満足している葦である---、
 みたいな詩かな」  
   (詩の記憶は曖昧です)



その時、私は、ピグでもなく、DJでもなく、1人のリアルな私として
その詩に感動していました。

「いいね」


私はそれしか言えませんでした。
女のピグを使っていたら、もっと言葉を多用して
詩の感想を表現豊かに伝えていたでしょうか。
 
男としての私にとっては、その言葉が精一杯でした。
 
 
「その自己紹介、フランス語を分かる人にしか読めないなんて
 もったいないな」
 
ありのままの正直な気持ちでした。
 

 
「フランスの何て人の詩?」
 
「○○です」
 
全く聞いたことのない名前でした。
葦でフランスというと、私にはパスカルしか思いつかないけど
パスカルではなかったと記憶しています。
 
言葉に窮している私に、フォローするように彼は続けました。


「日本で言うと谷川かな」


谷川とは詩人、谷川俊太郎を指しているんだろうことは
私にも分かりました。


「ああ、彼はもう大御所だよね。 御大w」

なんとか彼の話についていこうと、偉そうにそんな台詞を
私は吐きました。

きっと男キャラを演じようと思っているから
そんな物言いになったんじゃないかと思います。
あの青年に男としてバカにされたくない気持ちが
そこにいる自分にそんな言葉を吐かせたのだと思う。
私って小さい男ですねw


彼はそんな年長の男の心中を見透かしてるかのように
私の言葉を笑って受け流しました。


「日本ではどんな詩人が好きなの?」

話を展開してみました。

「う~~~~ん」、 
考えた後、彼は 「中原中也かな」 と答えました。


中原中也。

あの汚れちまった哀しみにーー、の人か?
ってか、それしか知らないんだけど^_^;


なので、そのまま返しました。 でもそれっぽく、えらそーにw。

「汚れちまった哀しみに、の人だね」



彼は、その時、ふっと顔を上げました。
そして初めて少し笑って、こう言いました。

「そうです、そうです」


もちろん、相手はピグです。顔をあげてもいないし笑ってもいない。
でも私にはそう見えました。

なにか意外な所で仲間を発見したような、
自分を理解してくれる相手を見つけたような
そんな表情をしているように見えました。
 
「それは渋いね、若いのにw」
 
「www」




その時ーー


その音楽フロアの制限時間になりました。
少人数しかその場に集まらなかった場合、
無情にも30分でフロアの強制終了となるのです。

-- 残り30秒でフロアを閉鎖します --

画面に冷静に案内の文字が表示されました。



とりあえず残された時間で私は急いで彼に謝りました。

「ごめんね、あまりフロアに人がいなかったからーー」


彼はそこのルールはもちろん全て分かっているように納得し、
私に言いました。

「どうもありがとうございました。また。」


「うん。どうもありがとう」


慌てて互いに別れの挨拶をし、残り数秒のカウントダウンが始まった時、
彼の最後の言葉が画面に数秒残りました。


「あの、 Kath BLOOM 良かったです」




そして、画面は終了し、別の場所へと切り替わりました。


彼がいる間に、流せた Kath BLOOM の曲は何曲だったか。
恐らく2~3曲くらいのものだったろうと思います。


その間、彼はずっと背後に流れる曲をきちんと聴いていたのだな、

彼はKath BLOOM という歌手を以前から知っていたのだろうか、

彼は私との会話の間、目の前の男に何を思っていたんだろう…



青年と別れた後、そんなことをずっとぐるぐる考えていました。

そこはただのPC画面の中でしたが、
私には何故だか、フランス詩集を小脇に抱えた青年が、
街の人込みの中へと軽快に走り去っていく姿が見えたような気がしたのです。


あの詩は何て詩だっただろう、何て名前の詩人だったかな、
後に検索してみましたが、
それっぽいのは探せませんでした。


でも心に残る詩でした。

たった1本のか弱き存在である我々人間が
ただそれだけで満足し満たされている、という詩。

あの詩を自分の自己紹介の欄に書いている青年が
この日本のどこかにいる、
その事実に出会えただけで私は胸が熱くなります。


街の雑踏の中へと走り去る青年の後姿に、
私はもう失ってしまった過去の自分を見た気がしたのかもしれません。
 
 
それを見ていたのはもう男でも女でもなく、
ただの自分、ただ1本の葦としての自分、だったような気がします。


   

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2015/12/30 22:56
縁さま

コメントありがとうございます^^

ほんと、ネットの世界での出会いは一期一会ですよね~。
それは痛感しています。
だから、1つ1つの出会いをこれを最後と思って大切にしなくちゃ
いけませんね(^_^)

音楽はいいですよねv その時の空気感がその1曲だけで
ぶわぁ~~っと、甦ってきますよね^^
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2015/12/30 20:22
素敵な出会いですね。
仮想の世界だからこそのストーリーに惚れ惚れしながら拝読しました。
一期一会の出会いだけれど、だからこその良さがあるのかも知れませんね~。

音楽って、本当に素晴らしいですね^^
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2015/12/27 16:42
ほしのさま

コメントどうもありがとう^^です。

ネットの世界は相手の素性が曖昧だから、--だからこそ
下のアテナさんのおっしゃるように、その人の「感性」の部分が
鮮やかに浮き上がってくる世界でもあると思います。

そこがこういうSNSの面白さの醍醐味のような気がしますね^^
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2015/12/27 16:28
素敵な出会いですね^^

ネットの世界・・儚いけどそこにはやはり人がいて真実が集まっている。


冷たいPCの中で人の暖かい血の通った温もりが感じられればそれでいいのだと思います^^
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2015/12/27 13:42
アテナさん

コメントどうもありがとうございます^^

まぁ、あの中の人が本当に自己申告通りだったのかは分からないんですがね^_^;
ただ、あの人の内側のものには共鳴したんですよね。

ちなみに私は気ばかり若いので、こういう場だとどうしても実年齢より若く想像されます。
けっこうそれでジレンマみたいなものも感じてきたので
とりあえずプロフでは年代だけはバラしておきました(๑→‿ฺ←๑)
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2015/12/26 11:22
PCの中の世界では相手の性別も実年齢も本当のことはわからない
だけど会話からある程度の推測はできるだろう
言ってることが綺麗事だらけの嘘かもしれない
でも文字だけのやりとりだけでも相手の感性を感じ取ることはできる
感性は実年齢とは関係ないし読んでいる側の受け取り方・感性もある

>その事実に出会えただけで私は胸が熱くなります
 私はもう失ってしまった過去の自分を見た気がしたのかもしれません

そう思える ころさん の感性は瑞々しく若いと思う
まだまだ失ってはいないし過去の自分でもないと思うよ^^



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