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『道程』 (原文)   高村 光太郎

東日本大震災で被災された方々へ、
心を込めてこの詩を贈らせていただきます。

大正3年 2月9日に発表された
高村光太郎の『道程』(原文)です。

いつの日か、みなさまの力に代わることを願って・・・・。


             道程

どこかに通じてゐる大道を僕はあるいてゐるのぢやない

僕の前に道はない

僕の後ろに道は出来る

道は僕のふみしだいて来た足あとだ

だから

道の最端にいつでも僕は立つてゐる

何といふ曲がりくねり

迷ひまよつた道だらう

自堕落に消え滅びかけたあの道

絶望に閉ぢ込められかけたあの道

幼い苦悩にもみつぶされたあの道

ふり返つてみると

自分の道は戦慄に値ひする

支離滅裂な

又むざんな此の光景を見て

誰がこれを

生命(いのち)の道と信ずるだらう

それだのに

やつぱり此が生命(いのち)に導く道だつた

そして僕は此処まで来てしまつた

このさんたんたる自分の道を見て

僕は自然の廣大ないつくしみに涙を流すのだ

あのやくざに見えた道の中から

生命(いのち)の意味をはつきり見せてくれたのは自然だ

僕を引き廻しては眼をはぢき

もう此処と思うふところで

さめよ、さめよと叫んだのは自然だ

それこそ厳格な父の愛だ

子供になり切つたありがたさを僕はしみじみと思つた

どんな時にも自然の手を離さなかつた僕は

たうとう自分をつかまえたのだ

恰度そのとき事態は一変した

俄かに眼前にあるものは光を放射し

空も地面も沸く様に動き出した

そのまに

自然は微笑をのこして僕の手から

永遠の地平線へ姿をかくした

そして其の氣魄が宇宙に充ちみちた

驚いてゐる僕の魂は

いきなり「歩け」といふ声につらぬかれた

僕は武者ぶるひをした

僕は子供の使命を全身に感じた

子供の使命!

僕の肩は重くなつた

そして僕はもうたよる手が無くなつた

無意識にたよつていた手が無くなつた

ただ此の宇宙に充ちみちてゐる父を信じて

自分の全身をなげうつのだ

僕ははじめ一歩も歩けないことを経験した

かなり長い間

冷たい油の汗を流しながら

一つところに立ちつくして居た

僕は心を集めて父の胸にふれた

すると

僕の足はひとりでに動き出した

不思議に僕は或る自憑の境を得た

僕はどう行かうとも思はない

どの道をとらうとも思はない

僕の前には廣漠とした岩畳な一面の風景がひろがつてゐる

その間に花が咲き水が流れてゐる

石があり絶壁がある

それがみないきいきとしてゐる

僕はただあの不思議な自憑の督促のままに歩いてゆく

しかし四方は氣味の悪い程静かだ

恐ろしい世界の果てへ行つてしまふのかと思ふ時もある

寂しさはつんぼのように苦しいものだ

僕は其の時又父にいのる

父は其の風景の間に僅かながら勇ましく

同じ方へ歩いてゆく人間を僕に見せてくれる

同属を喜ぶ人間の性に僕はふるへ立つ

声をあげて祝福を伝へる

そしてあの永遠の地平線を前にして

胸のすく程深い呼吸をするのだ

僕の眼が開けるに従つて

四方の風景は其の部分を明らかに僕に示す

生育のいい草の蔭に小さい人間のうぢゃうぢゃ

匍ひまはつて居るのもみえる

彼等も僕も

大きな人類といふものの一部だ

しかし人類は無駄なものを棄て腐らしても惜しまない

人間は鮭の卵だ

千万人の中で百人も残れば

人類は永久に絶えやしない

棄て腐らすのを見越して

自然は人類の為め人間を沢山つくるのだ

腐るものは腐れ

自然に背いたものはみな腐る

僕は今のところ彼等にかまつてゐられない

もつと此の風景に養はれ育まれて

自分を自分らしく伸ばさねばならぬ

子供は父のいつくしみに報いたい氣を燃やしてゐるのだ

ああ

人類の道程は遠い

そして其の大道はない

自然の子供等が全身の力で拓いて行かねばならないのだ

歩け、歩け

どんなものが出て来ても乗り越して歩け

この光り輝く風景の中に踏み込んでゆけ

僕の前に道はない

僕の後ろに道は出来る

ああ、父よ

僕を一人立ちにさせた父よ

僕から目を離さないで守ることをせよ

常に父の氣魄を僕に充たせよ

この遠い道程のため

                                                
                 大正三年 二月九日

                 『美の廃墟』 三月号に発表
     
                 高村光太郎 『道程』 原文より
                                             
 

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2011/08/28 16:27
DOLUCE×さま、コメントありがとございます。

名作には作者の魂がこもるといいますからね。
時を超えて、生き続けているのでしょう。(^^)
高村光太郎氏の息遣い、
「現代人よ!どんな苦難ものしこして歩いてゆけ!」のエールが、聞こえてくるようです。

コメント、感謝いたします!
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2011/08/28 15:10
わたしもこの「道程」にいろんなことを考えさせられた一人です^^
うちもこの先どうすればいいのか
悩んで悩んで
苦しくて苦しくて…
自分が進んでいる道が正しいのか
不安で
一人で歩いていて
すごく寂しくなって
もう全部やめてしまおうかと思ったこともありました

でも
もうちょっと頑張ってみよう
って思えたのは「道程」と出会えたからです^^
この詩との出会いに感謝します^^
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2011/08/28 14:41
DOLCE Xさま、コメントありがとうございます。

こちらこそ、はじめまして。(^^)

『道程』(原文)は、悩んでいるとき、深い悲しみの中にいる時こそ
それぞれの胸に深く沁み込む・・・そんな稀有な詩だと思います。

私がこの詩に出会ったのは、小学5年のとき。
今思えばほんの子どもですが、この詩で「救われた」気がしました。

悩んで立ち止まっていても何も生まれない。
うずくまったまま腐っていく自分の上を、生命力のある人間たちはのしこし先へ進んでいく・・。
自分はどんな人間でありたいのか?
ここで朽ち果て、名も無き人間で終わってもいいのか・・?
「・・・いやだ!私は私の人生をしっかり生きたい!この手で輝かせたい!」。

たった10歳足らずでしたが、こんなふうに「立ち直った」のを思い出しました。
実は当時、「生きる意味」を模索・苦慮していたのです。(^.^;
「自分は何のために生きているのか?何に向かって歩んでいるのか?」
真剣に悩んでいました。

その後、医者を目指すようになり、最終的にはマスコミへと進路を変更しましたが、
小学5年でこの原文に出合ったことで、私は変わりました。
たかが「詩」、されど「詩」です!(^^)

今回の震災の被害は甚大。
一瞬にして家族を、思い出をなくした方々の巨大な悲しみは、我々ではどうしようもありません。
「物資の支給」は瞬間的な喜びにはなります。
でも、それが生命力の復元に通じるとは考えづらい・・。

自らが「よしっ!」と立ち上がる。
それには本人の「気づき」しかありません。かつての自分がそうであったように・・。

『道程』(原文)は、少なくとも私を救ってくれました。
その力は、今も心から笑えないでいる方々の力になると信じ、ここに紹介させて頂きました。


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2011/08/28 03:44
初めまして^^
こんばんは

わたしも道程を先ほどブログに載せてきたところです
やはりニコッとにも道程の原文を載せている方いらっしゃいました^^

大震災…
学校で募金活動は行いましたが
わたしにできたのは募金を呼びかけることだけです…
何かできること
探してみるもののなかなか答えを見つけられずにいます…。

いきなりの訪問失礼いたしました…。
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2011/04/06 01:43
たぬきの休息さま、コメントありがとうございます。

そうですね。
募金以外何も出来ないでいる自分を嘆くよりも、
今、目の前にある自分の本分に集中すべきですね。

昨今の「自粛ムード」で、日本全体が陰鬱な空気に包み込まれています。
先日知人が、「元気のいい所(都道府県)でしっかり儲けて、その利益の一部を配分すべきよ。
このままじゃ日本経済が停滞どころか沈みこむわ!」と息巻いていました。確かに・・。

思い返せば阪神・淡路大震災の際も美しい神戸の町並みが破壊され、
多くの方が家族を亡くし、家を無くし、職を失いました。
それでも傍から見ていると街の復興は想像以上に早く、
改めて、思い・願いが一丸となった時の『人間力』の凄さを思い知りました。

確かに今回の大震災は被害規模がケタ外れです。
加えて今もまだ収拾の見通しがたたない原発問題・・・。
一足飛びに物事は解決しそうにありませんが、
日本人の得意とする「一歩一歩着実に」その歩みの先に、
被災された方々の、ひいては日本国民の、ひとまずの笑顔が待っているのでは・・・。

しかしながら原発問題・・・これがどう進展するのか、まだまだ注視が必要です。
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2011/04/04 23:49
「私の周りに」現地で頑張っている人が多いのであって、自分が行っているわけではないので、申し訳なさは同じようなものです。
件の職場の同僚も日頃から体力には自信のある男性だから出かけると言っているのであって、さして体力に自信もない女性が気持ちだけで出かけても却って迷惑になるのではと思ったりもします。
何せ半日支援物資の仕分けをした程度で数日筋肉痛でしたから・・・

今はまだ現地は飛び込みのボランティアを十分に受け入れられるような状態ではないと思います。
支援が必要なときに支援できる人が支援する、その他の人はとにかく日々一生懸命自分の本分を頑張って日本の経済を支える、これしかないと思います。
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2011/04/03 03:18
たぬきの休息さま、コメントありがとうございます。

本当に仰るとおりです。
短縮版の『道程』は、正直なところ感動には程遠いです。
何かしら決意は感じられるものの、正体不明。
何とでもとれるだけにインパクトに欠け、心に沁みません。

それが、「詩」というには長すぎる原文を読むとドラマがあり、
自然に感情移入してしまいます。
小学生だった私でも感動したのですから、『道程』(原文)が発表された当初は
かなり反響が大きかったことでしょう。
いつ短縮版が出来たのか調べていないのではっきりした事は言えませんが、
原文ありきで短縮版の評価があるような気がします。
原文の世界観が胸を打てば、短縮版でも十分イメージが膨らみますから。

この詩は我々世代~年配まで幅広く知られています。
ただ、「『道程』いいよね・・」としみじみ言うのは決まって年配の方。
我々世代そしてそれ以下は、話題にも上りません。
原因はやはり「短縮版」にあるのでしょう・・・。
ただ、原文は本当に長いですからね。容易に掲載は出来ないのでしょう。

話は変わりますが、
たぬきの休息さんの周りには、実際に行動に移している方が多数いらっしゃるのですね。
私は募金止まりで恥ずかしいです。
でも引き続き、自分に何が出来るのか考え続けるつもりです。


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2011/04/02 21:52
話が少しずれますが・・・

短縮版は教科書か参考書に載っていたと思います。
初めて見たときの感想は「なんて他力本願な・・・」でした。
短縮版だけ見てこの詩の世界を把握するのはかなり難しいでしょう。
というか、詩のように言葉で作り出す世界は切り取っては駄目ですね。
それで本が埋まってしまうような長さでもないのだから、載せるなら全文にすべきです。

兵庫県では被災地の瓦礫などの除去ボランティア(持ち物など実費・車で寝泊り)を募集したところ、予定より早く定員が充足したそうです。
「阪神大震災や集中豪雨で助けてもらったのを返すのは今」という方が多かったとか。
関西広域連合も府県で担当被災地を分けて支援中。
身近なところでは、部署が違いますが、うちの職場の方も何名か交代で被災地に出かけています。
同じ職場の同僚も「いつでも出かけます。亡くなった方を発見したらつらいとは思うけど準備はできています」と話しています。
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2011/04/02 20:57
taroさま、コメントありがとうございます。

『全ての物事には必然性がある』、これは私の信条です。

taroさんの仰るように、一見遠回りに思えても、
後々その経験が生きてくることもあります。
また、その経験があったからこそ今と比較できるのですから。

どのような道を歩んだとしても、必ずや『別の道』は視界に入ります。
それが今歩んでいる道より、魅力的に思えることもあります。
でも、それが人間の性というもの。
手に入れていないからこそ、より輝いて見えるのです。

『今、目の前にある物事に全力で取り組めない者が無いものねだりをしても、
 所詮同じ結果しか得られない』
これは、成功された方が口をそろえて言う言葉です。

でも、納得して新たな道を歩き出す。
それは立派な再出発です。

taroさんの新たな道が光に包まれていることを、心からお祈りいたします!
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2011/04/02 17:27
自分も別の道を選んでたらと思いますが、
結局今からその別の道をまだ選んで頑張りたいです。
少し遠回りになりましたが、今まで選んだ道はやっぱり後悔はしないですね。
回り道もいい勉強でしたしね^^
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2011/04/02 00:05
taroさま、コメントありがとうございます。

taroさんは20台半ばですからね。
私から見れば、これから何でも出来そうで羨ましいです。

自分の過去を振り返ったとき、一片の悔いもありませんが
時には「あの時、別の道を選んでいたら・・・」と思うこともあります。
例えばアナウンサーではなく研究職についていたら・・です。

生きている限り人間は、常に目の前に分岐点があらわれ、選択を迫られます。
でも、本人が納得して選んだのならば、きっと悔いなど残りません。

私も、人さまに迷惑をかけることなく、
限りある我が人生を謳歌しようと思っています!
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2011/04/01 23:27
自分の人生、周りに流されることなく
自分のやりたいように、自分のできることを精一杯やろうと思いました。
過去を振り返ってできてる道がいつか誇れるように頑張りたいですね。
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2011/04/01 22:07
nagataさま、コメントありがとうございます。

『道程』  (短縮版)

僕の前に道はない
僕の後ろに道は出来る
ああ、自然よ
父よ
僕を一人立ちにさせた廣大な父よ
僕から目を離さないで守ることをせよ
常に父の氣魄を僕に充たせよ
この遠い道程のため
この遠い道程のため

こちらは、かなりの方がご存知ですよね。
ただ私は原文を先に目にしたので、
「どうしてこんなにバッサリ切ってしまったの・・?」でした。
小学生の時以来、ずっとこの原文を探していたのですが、
見つけられないまま悲しい思いをしていました。

それが、ネットは偉大かつ便利ですね!
検索すると、ありました~!
本当に嬉しくて、画用紙に書き出してしました。
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2011/04/01 14:52
最初のところだけ 好きで覚えてる
 
僕の前に道はない
僕の後ろに・・・
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2011/04/01 00:10
Junoさま、コメントありがとうございます。

Junoさんは繊細な方なので、どうしていらっしゃるのかと心配していました。
コメントを読ませていただき、ほんの少しですが安心致しました。
オカメちゃんも、驚いたでしょうね。
人生、いえ鳥生最大の揺れだったでしょうから。

関東地方では今も時折余震があり、
ヒヤリとさせられると友人が言っていました。

幸いにも私が住んでいる所は、ほんの少しの揺れもありませんでした。
ですから地震発生当初、確実に大震災は起こったというのに、
(正直なところ)悲しいかないま一つ現実感が伴わなかったのです。

連日テレビに映し出される無残な光景に息を呑み、
「これがフィクションならば・・・」などと何度思ったことでしょう。
しかし、何百キロと離れた所でその光景は確実に繰り広げられ、多くの涙が流されているのです。

「この現実から目を逸らしてはいけない」。
テレビを、新聞を読まなければこの現実はいつか過ぎ去る・・・、
そんな無責任な人間にならないようにと自らを戒め
日々この現実と向き合っています。

『道程』(原文)は、数え切れないほど目にしたので、今では暗唱しています。
悩んだり落ち込んだりすると、自然に口ずさんでいます。

「苦しんでいるのは私だけではない・・・」。
そう思わせてくれ、前に進む力になる。
私の背中を押し続けてくれる、『師』のような存在なのです。


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2011/03/31 15:03
Olivierさん、ご心配いただきありがとうございます。
有名な詩ですね。
でも通して読んだのは高校生の時一度だけだったと思います。
長い詩ですから、一字一句間違いなく書く作業は大変だったことでしょう。
Olivierさんが精魂込めて転載された詩ですから、何度も読ませていただきますね。

オカメインコも含め、表面上は普通に暮らしています。地震酔いもかなり良くなりました。
ただ、震災以降、クリエイティブなことをする気力が全くありません。
地震を理由にとんでもない怠け者になったのではと我ながら不安になるくらい。
私よりずっとデリケートな性格の家人は、毎晩余震の夢を見て朝食が食べられません。
テレビなどで地震報道を見ると気持ちが悪化するので、
静かに音楽を聞いたり、陽気なアニメを見たりして過ごしています。

私は大阪で阪神淡路大震災を経験したのですが、その時は終始元気でした。
まさかあれより怖い地震に遭うとは思いませんでしたが、ここは東京。
東北地方太平洋側よりずっと被害も揺れも小さいのに…。
本人も理解できない心の奥底で、何か解決できない不安があるのかもしれません。
幸い身体は健康ですから、ゆっくり生活していきたいと思います。
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2011/03/31 04:36
たぬきの休息さま、コメントありがとうございます。

はい、そうです。
でも、まさかこのような形で紹介させていただくとは
思ってもみませんでした。

この詩は大袈裟ではなく、私の人生の指針になりました。
初めて読んだ時、鳥肌が立ち、涙が込み上げてきたのを今も覚えています。
それからというもの何ヵ月間も、昼休みになると図書室に通い、
この詩を読んだものです。
大好き・・・そんな感情を超越した、大切な作品です。

今回の大震災では多くの方が犠牲になり、
そして今なお膨大な数の行方不明者がおられます。
その方々の記録映像や笑顔の写真等が紹介されるたびに、胸が締め付けられます。
どなたも、まさかこんなに早く人生に幕を下ろすとは思ってもみなかったでしょうから・・・。

どうしても私は考えてしまいます。
もしも自分の身内が被災していたら、行方不明者だったらと。
それだけでも涙が溢れそうになります。
がれきの山をさまよう被災者に自分を重ねた時、
期せずしてこの詩が鮮明に浮かんだのです。

言葉には力があります。
たとえ今、何も感じ得なくても、いつの日にか生きる力に変わることもあります。
そんな願いを込めて、紹介させていただきました。
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2011/03/31 01:10
以前のお話に出ていた詩ですね。
拝読しました。



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