Nicotto Town


コロポックル


沖田総司のグルメ


野暮用が終り両国橋を歩けば
橋の向うから俺に手を振って駆けてくる男が見えた。
それは見知った男だったが
剣呑な男だから見なかった事にして引き返し人混みの中に隠れた。
隠れたが、剣呑な男はなぜか俺を見逃してはくれない。
「山口さぁん!山口さぉぉん!」と俺の名を喚く!
五月蝿いわ!
仕方ないので振り返り
「何!」と問うと
「何度も呼んだのに振り返らないから耳が遠くなったかと思った」だとよ。
俺は爺か!って、この剣呑な男と俺は同い年だ。
男は宗次郎と言った。
猫の様な優男だがこれでも剣術の師範代だ。負け無しの俺がこの男には負けた。
この宗次郎が
「鰻を食べに行きませんか」と来た。
俺に鰻を奢ると言うのか。
中村屋の切符(商品券)が有ると言う。
両国の中村屋と言えば蒲焼屋の番付で前頭、普通では食べられまい。
宗次郎は浅草の前川(前頭)には大先生の連れで行っているが両国は不案内だと言う
「中村屋を知っていたら一緒に行きませんか」と、
鰻を食べられるならいいか、俺は連れになった。
行きすがら宗次郎は
大先生が贈答の鰻切符を食の好き不好きがある宗次郎にくれたとの話しだった。
内弟子の身分で呆れる話しだ。
それに宗次郎は元服はまだだと言う。
どこでも元服と言えば月代を置き名を改めて社に参り、挨拶周りをするぐらいだから。出来たはずだ。
ところが
「元服は若先生の天然理心流宗家の四代目襲名披露と一緒にやるんですよ」と事も無げに言う。
四代目披露!そんなに華やかな席で元服をするのか!
「まぁ、私の元服は若先生の宗家披露の賑やかしです」と言う。
内弟子が食べ物の好き不好きを言えて
食の細いを心配して鰻切符をくれてやる大先生とか。
宗家襲名を内弟子の元服と共にする若先生とか。
呆れるにも程がある。
いや、人の事だ。俺は鰻が食べられれば良し。

中村屋に着くと俺達は隅に座った。
暫くすると鰻を乗せた膳が運ばれて来て食べる運びだ。
中村屋で席に着くと宗次郎は自分の生い立ちを話し始めている。
俺は頼んでもいない。
友でも無いのにあえて聞かん。
だが宗次郎は面白おかしく自分の生い立ちを話しだした。
面白く話してはいるものの宗次郎の生い立ちは決して面白いとは言えなかった。
4歳で父が死に母が死に9歳で道場の内弟子と言う話だ。
鰻屋の客は聞くとわ無しに宗次郎の話に聞き耳を立てた。宗次郎の話しですすり泣きが漏れるほどに。
9歳で道場の内弟子になったと聞くと客の誰もが同情したようだ。
普通、商家に住み込みで奉公は当たり前だ。でもそれは12歳を過ぎた歳だ。
皆、肉親と涙で別れて奉公に行く。一人前になる日を耐えて働くのだ。
しかし、侍の子が肉親と別れて住み込みなど聞いた事も無い。
しかも宗次郎の内弟子に入ったは9つ。
9歳で道場の内弟子とはあまりに幼い。
誰もが住み込みの奉公をしているので親との別れの辛さ。奉公先での苦労は知っている。
宗次郎が9歳で内弟子と聞くと哀れで、わが身を顧みて号泣も聞こえる。
確かに9歳で内弟子は不幸だ。
でもな、この宗次郎は好き不好きもあるままで。
元服は宗家襲名披露の華やかな席を確約されている。
ここで一瞬、客のすすり泣きが止まった。
やっと気が付いたか客ども。可笑しいだろ、内弟子で中村屋の鰻は。
そこへ店の者がきて茶を入れ替えてくれ
「こちらへは」と聞いた。
ここで鰻を食べられるのは何故かと遠まわしに聞いた訳だ。
宗次郎は
「友の山口さんに連れてきてもらったので」と笑んだ。
俺か!道案内だけなのに!
その言い方じゃ俺がお前に鰻を食わせてるとなるだろう!
再び客は号泣の坩堝だ。
友が食わせてやらなかったら鰻も食べられない哀れな宗次郎。ふざけるな!鰻切符を持ってるのは宗次郎の方だ!
すると座敷の向うから番頭風の男が来て
「頑張って強くなんなさいよ」と言った。
馬鹿か!宗次郎は師範代だぞ!
その宗次郎は番頭に
「頑張ります」と笑む
頑張りますだと。ふざけるな!俺はお前に負けてるのに。
番頭は煉羊羹切符を宗次郎に渡すから宗次郎は辞退したものの
しかし、ありがたく頂いていた。
なんだか他人事だが腹が立つ!
この腹が立つのはどうしたものか。
帰りがけ怒りが収まらぬ俺は
「ふざけるな!」と宗次郎を殴った!
死闘になってもかまわないと背を向けてて帰ったが宗次郎が怒る事も死闘にもならなかった。

宗次郎は元服後、沖田総司と名を改め
俺も山口から斉藤に名を変えて新撰組の隊を率いている。
俺が通りかかると沖田は隊士連中と話しをしている。
沖田は今でも剣呑だ。見ない振りで行き過ぎると
「私は斉藤さんに殴られた事があって」って、俺かよ!
「喧嘩ですか」と、隊士に問われて
「喧嘩なんて、とんでもない。斉藤さん怖くて」だと。ふん。

俺は沖田に近づいて耳打ちした
「ふざけるな」と、
沖田が
「ほら、怖いなぁ」と言うと、あっという間に俺から隊士達が引く。
何故だ!
隊士達は庇う様に沖田を囲んだ
とうの沖田はひらひらと手を振って笑っているんだ。
腹が立つ!



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2010/12/25 17:44
沖田総司の3段突きは、近藤先生も敵わなかったという説もあります。新撰組では、総司が一番強いと思いますが、どうでしょう。
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2010/12/23 14:36
小梅さん♪
カキコの後で書き直したりして・・・アップが遅遅でしたぁ~
面白いと言っていただいてありがとうございます!
嬉しいデス!!
とっても励みになります!!嬉しいデス!!
がんばります!
本当にありか゜とうございます♪
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2010/12/12 00:08
面白いです^^
というか しっかりした文章に引き込まれましたw
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2010/12/11 20:24
けいこ先生さん♪
沖田総司は色々に言われていますが
沖田さんの子孫が色白で小柄と言われているので
コロもそれを取りました。
剣も「猛の剣」と永倉さんが言ってるのでカキコしました。
新撰組のサイトは物凄く調べていらっしゃる方が多くて
一隊士のお墓まで~調べる幅広さ~で読むとカキコしたくなります♪
誉めていただいてうれしいです!ありがとうございます!!
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2010/12/11 20:09
☜m☆m☞ 王子様♪
小石川の鰻屋さんに行っていたと言う伝聞が残ってるらしいです。
両国の中村屋と浅草の前川の話しの沖田さんと斉藤さんは嘘ですが
お店が番付で前頭だったのは本物です。
行っていたと言われている小石川の鰻屋さんですが
名前がわからなかったです。が、前頭だそうです。
中村屋さんも前川さんも前頭だから~
記録に無くても行っている可能性がありますよね♪
蒲焼屋さんをお相撲の番付にしたグルメの紙が残ってるそうです。
沖田さんは色々と言われていますが
沖田さんは色白で小柄と沖田さんの子孫の方が言ってるそうで
コロも色白小柄の沖田さんです。
新撰組の小説をカキコの方は皆、凄く調べていらして
目からウロコの事が多いです。
昔の成人式を聞くと15~20の間で簡単で簡素なものが普通なのに
沖田さんは襲名披露と一緒というのは破格のようです。
でカキコしちゃいましたぁああ♪
今でも現存する鰻屋さんがあるとはしりませんでしたぁ♪
本当に新撰組ファンの方って凄いです!!
誉めていただいて嬉しいです。
でも書き直したりしてアップが遅遅でしたぁぁぁ!!
本当にありがとうございます♪


奈央さん♪
ありがとうございました♪


onpuさん♪
池波正太郎さんは有名ですが・・・読んでいません。
TVでドラマになったは見ますが・・・読んでないです。
コロは新撰組の私小説をカキコの物を良く読みます。
アドをカキコしたいほど凄い小説をカキコの方がいるのですが
何故かサイトを変えて変えて変えて~なので知らないうちにサイトが無くなるです。
ただサイトのお名前だけは変えないので探しては読んでいます。
本当に小説で面白いのですし
昔の刑法とか商品券、グルメ本まで知っていて凄いですよぉぉおお!
誉めていただいてありがとうございます♪


風子コロポックル姫様♪
誉めていただいて嬉しいです。
コロの知っているサイトで斉藤一の小説をカキコの方がいてマネです♪
その方の小説は凄くってアドをお教えしたいのですが・・・
サイトが変わってかわって~お名前を手がかりにサイトを探しては読んでます。
そのサイトで小説を読むと小話しぃいい!をカキコしたくなります
誉めていただいて ありか゜とうございます♪

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2010/12/11 18:15
コロちゃん、こんにちは。
題名の「沖田総司」にひかれてがっつり読みました。
面白かった!
次回作も期待!
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2010/12/11 17:55
何処からの小説の切抜きのように、確かな書きっぷりでもうほんとに、アングリwww

コロちゃんは、将来、女流作家志望ですか?!
前回も、今回も際立つ対比が素晴らしく、引き込まれちゃいました。

これからもまた、楽しみにしています。
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2010/12/11 03:58
池波正太郎さんのようで
すごいなあ
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2010/12/10 22:14
(*´ ー`)φkonnbannwa...本日の訪問ですφ(´ー `*)
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2010/12/10 21:27
妖精さん 今晩は♫

沖田総司の第二段ですね!
おぅ!鰻ですかw沖田も好きだったのかな
実は、私の好物の一つなんですよw
残念ながら、二人の行った両国の中村屋は現存して無いと思われますが
話の中に、もう一つ名前の上がっていた浅草 駒方前川は平成の今も暖簾を守っていて
私も何度か鰻を食べに行った事が御座いますw
二階の座敷窓際からは隅田川とそこに架かる駒方橋が良く見えましたが
もしかしたら、ここを訪れた沖田も同じく当時の大川と駒方橋を眺めたかもしれませんね

沖田と斉藤
新選組の二人の剣豪、それぞれの個性が今回も際立つお話で
読んでいて引き込まれて行きましたw☆^^!





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