Nicotto Town


ぽいじゅんのぽじてぃぶぽんちょ


バレンタインスクランブル -ゴロウ-

「オッサン、これでも食べな」
通りすがりの若者が何かをこちらへ投げた。
綺麗にラッピングされた紙袋。
食べ物だろうか?食べろと言うからにはそうだろう。
前に食事にありつけたのはいつだったろうか。
三日ほど前に食べ残しのコンビニ弁当を獲得したような気もするが、
既に日付の感覚はなくよく思い出せない。
できるだけ動かず、ただ日が昇り沈むのを見届ける日々。

ホームレスになったのは十数年前。
当時は小さな建設会社を経営しており、周囲からは社長と呼ばれていた。
妻も子供もいた。決して裕福とはいえなかったが、家族三人幸福につつましく暮らしていた。
だがバブルの崩壊で全てが水泡と化した。
会社は倒産し、多額の借金を抱え、妻は子供を連れて蒸発した。
借金取りに追われながらもなんとか再興の道を模索し、必死に努力した。
昼は飲食店で働き、夜は工事現場で寝る間を惜しんで働いた。
睡眠時間は毎日2時間ほどだったろうか。
やがて無理がたたり身体を壊した。
仕事はクビになり、家賃を滞納し、着の身着のまま放り出された。
全てがどうでも良くなった。

この国は実に不思議だ。世界で二番目に裕福な国日本。
街にはブランド品を身にまとった若者や、高級外車を乗り回す者で溢れ、
国家は何かある度他国へ数千億もの資金援助を申し出る。
何十兆もの借金を抱えているというのに。
上昇し続ける失業率、業績を伸ばす消費者金融会社。
ホームレスも増え続けているような気がする。
縄張り争いが最近激しくなってきた。

だがそんなこともう私には関係のないことだ。
ただ死を待ち侘びる日々。
そのくせ腹は減り、望んでいたはずの死から逃れるように食べ物を探す。
紙袋を開けた。
どうやらチョコレートのようだった。
そうか今日はバレンタインデーというやつか。
それに何やら手紙らしいものも入っている。
手に取ろうとした瞬間、腕に激痛が走った。

「てめーホームレスのくせに何生意気なもん持ってんだよ!」
目の前にはチンピラが立っていた。
どうやら思い切り蹴られたらしい。
思わず紙袋を落としうずくまると、チンピラが紙袋を拾い上げた。
「こいつは没収な」
そう言い放ち、もう一度蹴りを喰らわしてチンピラはどこかへ行った。

「待て・・・それには」
痛みに襲われながらも私はフラフラとチンピラの後を追いかけた。




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