Nicotto Town


ぽいじゅんのぽじてぃぶぽんちょ


-バレンタインスクランブル-

「あーっ!」
サオリは思わず今日ニ度目の叫び声を上げた。
一度目はカホにあげた紙袋に、ヒロキ宛の手紙が入っていたことに気が付いたあの時。
だが驚きは今のほうが格段に大きい。
あの後結局カホとは連絡が付かず、
一日中渋谷の街を走り回って探した紙袋が今目の前にある。
そして何より、渡そうと思って諦めたヒロキまでそこにいる。
走った後でただでさえ動悸が激しいのに、
もう今にもサオリの心臓は口から飛び出しそうな勢いだった。
おまけに頭の中は真っ白である。

「おーサオリじゃん。どうしたーそんなに慌てて?」
サオリとは同じ高校で、一年の時に親しかった頃がある。
学年が変わり、別のクラスになってからあまり話すことはなくなったが、
幼馴染のカホからよくサオリの話は聞いていた。

「そ、その袋・・・私のなの。てかなんでそんなボロボロになってるわけ・・・?もうわけわかんない・・・」
「そっか、じゃこの手紙の『ヒロキ』ってもしかして・・・」

サオリは本日三度目の叫び声を上げそうになったが、今度は声も出なかった。
精一杯の勇気を振り絞って綴った愛の言霊を、警官が満面の笑みで掴みひらひらさせている。
もうこうなったら当たって砕けろだ。
一度は諦めたのに、今こうして告白のシチュエーションが整ったのはきっと運命なのだろう。
結果がどうなったっていい。今日はこれだけ何度も驚いたんだもの。
今更何がきたって、空から銀のスプーンが降ってきたって構うもんか。
サオリは覚悟を決めた。

「実はさ、今日ヒロキにそれ渡そうと思って・・・でもできなくて」
「うん」
「ボロボロになっちゃったけど良かったら受け取ってもらえるかな?」
愛の告白と呼ぶには程遠いけれど、それが今のサオリにできる精一杯だった。

「なんだかよくわからないけど、サオリからのプレゼントなら嬉しいよ。ありがとう」
ヒロキは努めて冷静にそう答えた。つもりだった。
が、内心は穏やかじゃなかった。
サオリのことが初めて会ったときからずっと気になっていたから。

「ほんと・・・?」
「ああ。てかサオリってほんと落ち着きないよなー。プレゼントとか普通落とすかよ」
そういたずら少年のように笑顔で話すヒロキは、初めて出逢った頃と何も変わっていなかった。
少し距離ができて不安がいっぱいあったけれど、ちょっと安心した。

「ちがっ・・・それは」
サオリが弁明しようとした瞬間、警官が持っていた手紙が眩く光り輝き、辺りを白く包んだ。
どこか懐かしいその空間。雲の上のようであり、海深くのようであり。
身体は無重力のようにふわふわしていて、そこにはサオリとヒロキ、
それに怪しげな笑みを浮かべる警官だけがいた。
頭の中に不思議な声が流れ込む。

おめでとう、うら若き諸君。二人に神の祝福を。
Happy Valentine!





Copyright © 2024 SMILE-LAB Co., Ltd. All Rights Reserved.