Nicotto Town


ぽいじゅんのぽじてぃぶぽんちょ


クリスマスデスティネーション 第二章 第二節

リョウと出会って一年が過ぎた。
自分の想いを伝えるどころか、未だに彼とはろくに会話もしていない。
彼の無愛想と私の愛想良さがいつも邪魔をしていたから。
でもその時は突然やってきた。
夏の合宿で訪れた避暑地で偶然リョウと二人きりになった。
思わぬシチュエーションに一瞬戸惑ったけれど
いざとなれば私は度胸が据わっている。
ありきたりな世間話から入ったのだけれど、彼は意外にも優しかった。

「えっと・・・4年のリョウ先輩ですよね?」

「ん、ああ。君は確か2年の・・・」

「ユウコです!ここは涼しくて東京の蒸し暑さが嘘みたいですよね」

「まあその為に来てるんだけどね」

彼はいつものように寂しげな瞳で笑った。
その後一体どんな話をしたかは覚えていないけれど、
今を逃せば次のチャンスはいつ訪れるか分からない。私は想いを告げた。

「ごめん、ユウコちゃんとは付き合えない」

ただ一言返ってきた。
彼の眼からは寂しさすら消え去り、まるで無機質な宝石のようだった。
振られた自分の悲しさよりも彼の変化のほうが気になった。
まるでこの世の不幸をその一身に背負い、受け入れる覚悟を決めたかようなその表情。
この人はどんな人生を送ってきたのだろう。
こんな時ですら他人のことを心配するなんて・・・つくづく自分は。
私は去っていく彼の後姿を見つめながら泣くことのできない自分を恨んだ。

しばらくそこで呆然としていると、気付けばトオルが横にいた。
動揺を悟られないように、私はいつもの明るい自分を演じた。

「俺、初めて会ったときからユウコさんのことが好きでした。付き合ってもらえませんか?」

一体この人は何を言っているんだろうと戸惑った。
言葉が耳には届くのに頭に入ってこなかった。
トオルは私のことが好きだと言う。付き合って欲しいのだと。
確かにそう聞こえた。
彼は照れくささを隠すように目線を落としていた。
間違いない、私は告白をされた。
どうして私に・・・それもこんなタイミングで。

「ごめん、トオルくんとは付き合えない」

とっさに口をついて出た言葉。
私は頭の混乱を忘れ我にかえった。
ついさっき私がリョウに言われた台詞。
あの光景が蘇る。
そうだ、リョウに振られたんだった。
私の恋はあっけなく死んでしまった。
現実を今ようやく知った。

涙が溢れ出た。

止めようとは思わなかった。
ただ胸に込み上げてくる感情に従った。

ふと頭に温もりを感じた。
どこか懐かしいこの感覚。
その温度はより胸の鼓動を刺激し、私は体内の水分をほとんど失った。

リョウへの想いはしばらく消えなかったけれど、徐々に薄らいでいった。
そう努力した。
本当に好きな相手と結ばれる人なんて、この世にはほとんどいないのだから。
リョウと付き合えたとしてもきっと苦労する。
何度も何度も言い聞かして。
そんな私の側にはいつもトオルがいた。
まるで彼の好意を利用しているようで少し罪悪感があったけれど
彼の優しさはいつも暖かく包み込んでくれた。
穏やかなその笑顔は春の陽だまりのよう。
トオルと過ごす時間を大切に思うようになったのは自然なことだったかもしれない。


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