Nicotto Town


ぽいじゅんのぽじてぃぶぽんちょ


クリスマスデスティネーション 第二章 第三節

「よし!これでもう大丈夫だろう」

ようやく上司から作戦終了指令が下りた。
相変わらず一人黙々と
決して終わることのない作業をこなす壁掛け時計を見ると8時23分を指していた。
約束の7時を大きく過ぎている。
携帯を確認すると案の定トオルからの着信とメール。

ユウコは駆け出した。
トオルに連絡はしていない。
でもトオルはきっと待ってくれている。
そう信じていた。
今は一刻も早く彼のもとへ行くことが最優先事項。
連絡している時間すら勿体ない。

先ほどまでの戦場などすっかり忘れ、走りながらユウコはトオルとのことを考えていた。
こんな大遅刻は久し振りだ。
これまでトオルとの待ち合わせに遅刻をしたことは一度しかない。
忘れもしない初デートの日。
あの日母親が体調を崩した。
連絡できず1時間も遅刻した私をトオルは笑顔で許してくれた。
その笑顔があまりにも素敵で、私はそれ以来
約束の時間よりも早く着き、少し離れた場所からトオルが来るのを観察している。
私を待っている間一体彼はどんな仕草をしているだろう。
そんな好奇心から。
あまり意地悪するのも気が引けるのですぐに私は彼のもとへと向かう。
まるで今到着したかのように。
そうしてあの春の陽射しのような笑顔を堪能する。

そういえば一度だけトオルが遅刻したことがあった。
几帳面なトオルが時間通りに来ないことに驚き、不安になった私は
約束の場所へ行き辺りを見回した。
10分もしないうちにトオルは現れた。
安堵とともに、びっくりした彼の表情を見て私は冷静さを取り戻した。
少し意地悪してやろうと、遅れてきた私に言ういつもの彼の台詞をそのまま返した。
その時のトオルの顔ったら。

ゆりかもめの車内、ドアにもたれながらレインボーブリッジを眺めるユウコは
思わず笑みがこぼれた。
電車の中でメールしようかとも一瞬考えたが、悪魔が勝ってしまった。
あの笑顔の為なら私は悪魔にだってなれる。
こんなひどい私をトオルは全て許してくれる。受け入れてくれる。
彼なしではもう生きていけないかもしれない。

電車が台場駅に到着し、再びユウコは駆け出した。
約束のクリスマスツリー目指して。
ツリーのある吹き抜けに到着すると、すぐにトオルの姿は見つかった。
やっぱり待っていてくれた。
今日は彼を観察する余裕なんてないので急いで階段を駆け下りる。
下りる途中トオルもユウコに気付いたようだった。
一瞬交わる二人の視線。
トオルのもとに到着するユウコ。

「ほんとごめん!仕事でトラブって、私以外に・・・」

「気にしなくていいよ、今来たところだから」

いつもの笑顔が迎えてくれる。
トオルでよかった。
トオルと出会うことができて。
トオルが好きになってくれて。
トオルを好きになって。
他の何ものにも代えられない私の大切な居場所。

その居場所が離れてしまわないよう、いつものようにしっかりと私は彼の腕につかまる。
背後でクリスマスツリーがオルゴールの音色に合わせて踊りだした。
やっとクリスマスらしい雰囲気に包まれた気がする。
思わずイルミネーションに見惚れていると、トオルがぽつりと呟いた。

「へー、このツリーってこんな風になるんだ。キレイだね」

一瞬トオルを見る。
確かこのツリーは1時間ごとにイルミネーションを点灯させるはずだ。
今日の予定を決めるとき、雑誌で知った。
約束の7時、一人ツリー前で私を待つトオルがイルミネーションにどんな反応をするか
当初私が計画したイブの悪戯だった。
今は9時だからトオルはもう3度目のはずだ。
どうしてこの人はこんなに優しいのだろう。
その優しさに触れるたび、私は果てしなく甘えてしまう。
どうかこの大切な場所がなくなりませんように・・・
もう悪戯するのはよそう。
そう心に誓いを立てツリーに視線を戻した。

「じゃ、どこいこっか」

「記録更新祝いをしなきゃな」

トオルの反撃が始まった。
前言撤回。
やっぱり悪戯はやめないわ。


                                         第二章 完

アバター
2009/02/02 21:35
そう、ですかね・・・?
悟りの境地にいるのかもしれません。
アバター
2009/01/31 23:17
優しい恋物語ですね。
トオルさん、優しすぎはしませんか^^



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