Nicotto Town


ドリーム・バー 「デスシャドウ」


春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」28

 「春田! 待ってたんや。さあ、入って入って・・・。」
 夕暮れ迫る四条河原町の一角、大村探偵事務所のオフィスで谷本は友人の春田を迎え入れた。
 「今日も、暑かったやろ! ビールがいいか?」
 彼が事務所の冷蔵庫を開けようとしたが、春田が差し止める。
 「いや、麦茶にしてくれ。ビールだと寝てしまうわ。」
 「分かった。」
 谷本は麦茶を取り出し、グラスに注ぐ。良く冷えた麦茶を注いだグラスは、すぐ周りに水滴が付き始める。
 「で、どうやった? 山岡が宿泊したホテル分かったんやろ?」
 麦茶を冷蔵庫に片付けながら彼は聞いた。春田はため息を吐いて、
 「めっちゃ大変やってんから・・・。この代償は高くつくで!」
 と、テーブルに大判の封筒を置く。谷本は中身を取り出して書類を確認した。
 「まあ、お前の言った通りやったけどな・・・。」
 「やっぱり、大津のホテルに宿泊してたか・・・。」
 「それもスイートや。どんだけ金回りがいいねん、この山岡って奴は!」
 春田は頭の上で手を組み、ため息を吐きながら言った。
 「この資料によると、5年前の昭和63年頃から宿泊してるな。しかも、月2~3回のペースで・・・。」
 「お前の言う通り密輸に絡んでるとしたら、奴は5年前から荷担してたって事になる。」
 「5年前かどうかは分からんけど、少なくともそれ位からやってたやろね・・・。」
 「その様子じゃ、何か良い情報でも手に入れたんやな!」
 終始にこやかに喋る谷本を見て、彼は笑顔で言った。
 「まあな。今日、府警に行ってきてな・・・。」
 「それで?」
 「警視庁でずぅーっとマークしていた人物やったって話を聞かされた。」
 「マークしてた人物? 山岡がか?」
 「そう。何でも、東京近郊で『結晶大麻』って言う特殊な大麻が発見されたらしいんやわ。それの元締めをしてたのが山岡やったらしいねん。」
 「じゃ、何で殺されたんや? 仲間割れか?」
 「いや、違うと思う。山岡には多額の保険金が掛けられてたそうやけど・・・。」
 「保険金! これって、保険金殺人やったんかいな!」
 「保険金が絡んでるだけで、保険金殺人とはちゃうで!」
 「じゃ、原因は一体何やねん・・・。」
 「色々と調べてたけど、どうやら山岡の秘書が一枚噛んでるみたいや。しかも女性。」
 「女性秘書か・・・。何か色々と秘密を知ってそうやな。」
 「殺害された当日も、山岡と一緒にいる所を目撃されてるしな。府警では現時点での重要参考人で捜査してる。」
 「そういや、彼が宿泊してた部屋はスイートルームやな。彼女と一緒の部屋か。」
 「一緒の部屋かどうかは分からんけど、同じホテルに宿泊してたやろね。取りあえず警部に送るわ。」
 谷本は春田から聞いた情報を用紙にまとめ、すぐさまFAXした。
 「所で、お前。今日の仕事は?」
 彼は春田にFAXを流しながら聞いた。
 「今日は終わりや。 明日は夜10時に出勤で、そのまま次の日の10時まで。何でや?」
 「いや、一緒に晩飯でもどうかと思って・・・。」
 「いいけど・・・。まさか、今回の報酬がその晩飯やないやろな?」
 「・・・、当たり! よく分かったな。」
 「苦労したからな。例の店のBコースで手を打ったるわ!」
 彼は腕を組んで笑いながら言った。
 「Bかよ! せめてCにして・・・。」
 「そりゃ譲れへんな。メッチャ苦労したしな。それ位の報酬は払ってもらわんと・・・。 おっと、電話やで。」
 二人が談笑してると、事務所の電話が鳴り響いた。
 「多分、警部やろ。もしもし、大村探偵事務所ですが・・・。」
 電話を受け取った谷本の顔が強張り、見る見る青ざめていく。声のトーンからただ事では無いと思った春田が側へ駆けつける。
 「はい、分かりました・・・。今から向かいます・・・。はい、はい・・・。」
 「どうしたんや? 何か、顔がブルーになってるで。」
 受話器を置いた谷本に春田が問いかける。彼は一言、
 「先生が・・・、殺された・・・。」
 「えっ! 先生って?  まさか、大村さんか?」
 「・・・・。」
 「いつ? どこで?」
 「・・・・・。今日の、昼過ぎ・・・・。宮津で・・・。」
 「マジかよ・・・・。」
 春田は絶句する。暫く沈黙が続いた後、彼が再び問いかける。
 「で、行くんだろ?」
 「・・・どこへ?」
 「ああ! もう! 大村さんの元へ行くんだろ?」
 「そうやね・・・。」
 突然、事務所に乾いた音が響く。春田が谷本の頬を平手打ちしたのだ!
 「谷本! しっかりしろよ!」
 彼は谷本の両肩を持って揺さぶる。
 「今、6時だな。まだ電車は走ってるんやろ?」
 「・・・走ってると、思う。」
 「もう! しっかりしろよ! 取りあえず出掛ける準備しろ!」
 「着替えは自宅に・・・。」
 「お前は子供か!」
 二人は事務所から谷本の自宅へ戻り、間一髪で東舞鶴行きの特急あさしお11号に乗り込む事が出来た。

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2010/09/22 19:30
今回は第28話を掲載しました。昨日、深夜遅くに完成して掲載出来なかったんで、こんな中途半端な時間帯になってしまいました。

 自分の尊敬する人が殺された事がないんで、どういう心境かは分かりません・・・。でも、ポッカリと穴の開いた様になるんかなぁ~と思って、表現してみました。これから先、谷本と春田の心理描写をどういう風に書くか? と、思い悩んでいる所です。この複線と本線をどういう風に組み合わせていくか?
 今後の展開に御期待下さい。



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