春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」31
- カテゴリ:自作小説
- 2010/12/17 22:12:20
「今回もその撮影が目的でここに来たそうなんです。」
「って事は、その写真に何か写っているって事ですか?」
春田は身を乗り出して聞いた。彼はにこやかな表情で頷く。
「ご推察の通りです。 確かに何か写っていました。」
「その写真、見せて貰うことって出来ますか?」
谷本は立ち上がって酒井に聞いた。
「おいおい、谷本。 いくら何でもそれは出来ひんやろ?」
春田に諭され、ゆっくりとソファーに座り直す。そんな二人を彼は苦笑しながら見つめていたが・・・。
「クッ、クッ、クッ・・・。 いや、木村警部の言う通りですね。ホントに好奇心旺盛な人達です。
実はですね、木村警部から頼まれてまして・・・。今回の事件に関しては谷本君に情報公開してくれと。」
「えっ?」
「いやいや、木村警部も人が悪い・・・。 十分にやっていけるじゃないですか。」
「はぁ?」
二人は顔を見合わせて彼を見た。
「谷本君は探偵の卵だそうですね。 私がいかにお喋り好きだとは言え、普通一般人に捜査の重要な手がかりをお話すると思いますか?」
酒井は二人を軟らかな表情で見つめる。
「思いません。 どうも話が上手く行き過ぎていると思ってました。」
谷本は俯いて答える。
「ですよね。 でも、私は貴方達に情報を公開した。この意味が分かりますか?」
「もしかして、僕らがこの事件を調査しろって事ですか?」
春田は答える。
「ご名答! 君は頭の回転が速いね。 まあ、一つ、お手並み拝見といこうじゃないか。」
酒井は部下を呼び寄せ、現像した写真を持って来させる。
「第一発見者が撮影した現場付近の写真です。どうぞご覧下さっていいですよ。」
呆気に取られている二人をよそに、彼は十数枚の写真をテーブルに置いた。廃墟マニアらしい、廃屋の写真が数多く撮られている。
谷本は横目で春田を見た。彼も困惑顔でこちらを見ている。意を決して写真を手に取った。
「廃屋マニアらしい写真ですね。 このアングルなんて最高です・・・。」
谷本は写真を見ながら喋る。春田は溜息を一つ吐いて写真を手に取った。
「ん、これは・・・?」
写真を見ること十数分、フイに春田が口を開いた。それは廃屋の玄関を撮った一枚だった。まだ廃屋になって数年程しかたっていないのだろうか? 所々に生活感がある。
「ここの表札の所なんやけど、名字が『太田』と書かれてる。」
「ホンマか? どれどれ・・・。」
谷本は手にしている写真を掘り投げて彼の手にしている写真を見る。確かに表札には太田の文字が刻まれている。
「コレですか?」
春田は写真を指さして酒井に聞く。彼は軽く頷いて答える。
「そうです。調べた所、太田 陽子の生家だった事が分かりました。」
「生家? 実家じゃないんですか?」
春田は聞き返す。
「ええ。私らも実家だと思って色めきたったんですがね。 どうやら、彼女の祖父母の家だった様です。」
「つまり、お爺ちゃんかお婆ちゃんの家だったって事ですか? でもまた何でここが生家って分かったんですか?」
「近所の人の聞き込みでね・・・。まだ詳しい事は調査中ですが・・・。」