春谷探偵物語 第1巻「序章~始まりは殺人~」32
- カテゴリ:自作小説
- 2010/12/17 22:18:21
「ああああああっっっっ!!!」
突然、谷本が大声を上げた。そして、おもむろに鞄の中からファイルを取り出す。
「ビックリした~~~~。 いきなり叫ぶなよ!」
春田の指摘には目も触れず、一目散にファイルを読みふけっている。
「何か重要なファイルの様ですね・・・。」
酒井は興味深そうにファイルをのぞき込む。そこには乱雑な文字で書かれた文章がビッチリと埋め尽くされている。
「これだ!」
ファイルを開けた場所、見出しには太田 陽子の依頼と書かれている。
「このファイルは大村先生の調査記録書です。僕ら探偵にとってはもっとも重要なファイルで、当然、個人情報とかも書いてある訳ですが・・・。ここです!」
谷本が指さす場所にそれは書いてあった。
「ええっと、何々・・・。〈7月15日の10時頃 A商業施設の喫茶店で依頼人と会う。彼女の名前は『太田 陽子』25歳。〉」
「違う違う、その下!」
「下? 〈7月16日午後 京都府宮津市にある彼女の生家を訪ねる。既に廃墟と化してるが中に入る。家の中で熊のヌイグルミを発見。 ソレを持ち帰る。〉
大村さんは、彼女がここで生まれた事を知っていたんだ!」
「知っていたと言うより、聞かされたと言った方が正解かも・・・。」
谷本は溜息を吐きながら話す。
「続き、読んでみて・・・。」
「ああ。〈7月17日午後 ヌイグルミの中より取り出した袋を調べる。恐らくこれが噂になっている結晶大麻だろうか? 重要な証拠物だ。〉
結晶大麻って、ここに来るとき話してくれたアレか!」
「その文面だと、害者は太田 陽子がここ天橋立出身者である事を本人から聞いて、その本人が隠したとされる証拠物を取りに16日にここへやって来たようですね。」
「つまり大村さんは、彼女がここに現れるんじゃないかと思って、駅に到着してすぐにこの廃屋へ来たって事か!」
春田は納得して言う。
「多分・・・。 で、結晶大麻を狙っている人物かな?に見つかり・・・。」
「殺害されたって事か・・・。」
彼は溜息を吐いて言った。
「何となく、害者の行動が分かってきたね。 これはあの家を調べれば何か出てくるかも・・・。」
酒井は部下を呼び寄せる。が、谷本はそれを止めた。
「酒井警部、待って下さい! それは無理だと思います。」
「どうしてだい?」
「だって、先生を殺害した犯人が待ってましたと言わんばかりに現場にいたんですよ。とっくに証拠隠滅されてます・・・。それでさえ、先生を瞬殺した犯人です! そんな事はお見通しじゃないかと・・・。」
「だから、太田 陽子は隠すように熊のヌイグルミに証拠を入れた・・・。彼女自身に危険が及ばない様に・・・。」
春田はゆっくりとした口調で言った。
「東京で生活している彼女が、危険をおかしてまで京都に出向き探偵である先生に依頼する。並大抵の事では出来ない事です・・・。先生は彼女の身代わりに・・・。」
谷本はここで口をつぐんだ。 間髪入れずに酒井は聞き返す。
「だったら、どうしてそういう事を警察に言ってくれないんだ?」
「恐らくですけど・・・。」
春田が代わりに口を開く。
「誰かを守った、あるいはかばったんじゃないですか? 確か彼女にはツレがいたんですよね?」
「ああ。 小田 信二と言う東京在住のフリーカメラマンがいたよ。仲の良いカップルだなと思っていたが・・・。」
「多分、彼を守る為に嘘を言ったんじゃないですかね? 少なくとも僕はそう思います。
彼を事件に巻き込ませたくない・・・。まあ、大村さんを発見した事で十分に巻き込まれたとは思いますが・・・。
その一心だったと思いますし、僕ならそうします。」
「成る程・・・。 おい、大川。 橋立ホテルへ行って害者の写真をもう一度見せてこい。」
大川と呼ばれる刑事は部屋を出ていった。
「さて、宿はまだ取ってないんですよね? ご案内しますよ。」
酒井は記録ノートを閉じ、二人に向かって言った。
「恐縮です。」
春田がそう言いかけた言葉を谷本が遮った。
「お言葉ですが、もう宿はとってますんで・・・。 僕の通っていた高校が栗田(くんだ)だったんで・・・。」
「栗田? って事は、K高校ですか?」
「はい・・・。僕がこっちへ来るときの常宿として、駅前の旅館に・・・。」
「ああ、あの旅館ね・・・。 では、そこまで送ります。」
「有り難うございます・・・。」
なかなか話が進みませんが・・・。まあ、今後の展開に期待しておいて下さい。
(期待通りに書けるかな・・・。)