Nicotto Town


暇つぶし部屋


『君の隣で笑えたら』 #1





くしゃり、と風に揺れ落ちた葉を踏んだ。
それだけで何も言っていないのに、彼はこちらを振り返った。
そしてふわりと柔らかく微笑んだ。

わたしはこの笑顔がいつまでも消えないでほしいと願う。
例えそれが残酷でも、そう願いたい。


「日向(ひなた)、だね?」

「……」

「黙っていてもわかるよ。日向でしょう?」

「……ふふっ」

「ほら、日向だ」


黙っていたら別人だと勘違いするかなと思ったけど。
彼、レイは柔らかな笑顔を浮かべたまま、わたしをひらひらと手招きをした。
わたしは落ちている葉を踏みながら、レイの隣に座った。
レイの隣がわたしの特等席。


「どうしてわたしだってわかったの?」

「日向だからわかるんだよ。
他の人だったらきっとわからない。
誰かが来たなぁって思うだけ」


和の雰囲気漂う平屋の家には、南側に縁側がある。
そこに腰かけ1日中過ごすレイの傍には、白杖がある。
レイは目が見えない、いわゆる視覚障がい者。
眩しいほど降り注ぐ、太陽の日差しでさえもレイの目には映らない。
歩く時にはいつだって手にはこの相棒とも呼べる白杖が握られている。
生まれつきではなく小さい頃事故で失明したらしいけど、その事故を詳しくわたしは知らない。
だってわたしと出会った時、レイはもう何も見えていなかったのだから。



「わたしが来たって確信出来る理由あるんでしょう?」

「んー…どうやって話せば良いのかわからないね。
日向が来たって、感じでわかるんだよ」

「随分曖昧なのね…ふふふっ」

「ふふ」



わたしたちは平日の昼間、こうして一緒に笑い合う。
そして徐々に紡ぎ出していく、他愛もない話。
オチが全く見えない話が日が暮れるまで延々と続き、空に星々や月が見え始めたら別れて、次の日もその次の日も1週間後もきっと続いて行く。

わたしたちの日常。
それはとっても儚くて、突けば簡単に壊れてしまいそうな不安定な日々。
いつ終わっても可笑しくない、それがわたしたちの日常。
明日終わってしまうのか、それとも十数年後も続いているのか。
わからない明日を信じながら、わたしは日々を紡いでいく。

不安ばかりだった未来を信じられたのは、隣にいるレイのお蔭。
レイが隣にいるから、まだ見えぬ明日を信じられることが出来るのよ。
レイがいる…それだけで、わたしの心は救われるんだよ。

だから、わたしは明るかった空が暗く包まれ、きらきらと遥か遠くに輝く星々と幻想的な月が見え始めた頃、決まってレイに言う。

今日もわたしと話してくれてありがとう。
…そんな感謝と。
こんな当たり前の日々がいつまでも続くと良いな。
…そんな願いを込めて、言うの。



「また明日ね、レイ」

「うん、また明日。
日向、明日も来てくれる?」

「勿論(もちろん)っ!
レイも明日またここにいるよね?」

「台風じゃなければいるよ。
ここは台風が来たら濡れてしまうから、その時は家にいるからね」

「わたしは台風でも来るよ?だってお隣さんだもんね」

「待っているよ、日向」



わたしのことを1度も見たことがないレイ。
わたしはそんなレイに自分の姿を見せたくて。
帰り際は、必ずレイの手を取りわたしの頬に当てる。
レイのあたたかな両手がわたしを包み込む。

終始、レイの柔らかな笑顔は消えない。



「また明日、レイ」

「また明日ね、日向」




*つづく*




普段こんなに…何て言うのでしょう、ロマンチック?に
書かないのですが、何だか書いてしまいますね

いつもと場所が違うからかな…

う~、今からでもハッピーエンドに変えようかな
でもネタがない…


アバター
2016/10/04 15:04
>セカンド様

出来る限りほのぼのした作品にしたいと思っています
感情移入し過ぎるとハッピーエンドにしたくなるのでほどほどにしたいのですが…

最初はほのぼのっと、ごく普通の日常を書いていきたいです

#2もお時間があればよろしくおねがいします!
アバター
2016/10/03 19:35
いやいや!
「純」ですね❤

これからの日向とレイの身にそれぞれ起こる動きが
楽しみです。

なかなか良い書き出しかも





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