『君の隣で笑えたら』#2
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/05 19:20:11
「あぁ日向(ひなた)。来てくれて助かったよ」
いつものように、今日は落ちている葉を踏まないよう近づくと、レイは当たり前かのように振り返った。
わたしが来たことで驚いているレイを1度も見たことがない、と不貞腐(ふてくさ)れかけていたけど、少し慌てているようなレイの早口にそんな気持ちなどどこかへ吹き飛んだ。
普段のレイはおっとりとした、のんびりな口調なので早口なのは珍しい。
「どうしたの」
「落とし物をしちゃったんだ。探してくれないか?」
「落とし物?」
「ここで手に取って見ていたら、間違えて落としちゃって。
日向、悪いんだけど僕の代わりに探してくれないかな」
「わかった、良いよ」
目の見えないレイに、落としたものを拾わせるなんてちょっと困難だ。
大きなものならまだしも、わたしの目にも見えないから小さなものを落としたのだろう。
「何を落としたの?」
「ネックレス」
「ネックレス?」
「金の鎖の…シンプルなものなんだけどね。
僕の大事なものだから」
普段ネックレスを始めとしたアクセサリー類を身につけないレイ。
どうしてネックレスなんて持っているのだろうと思いながら、金の鎖のネックレスを探す。
肌色の、所々雑草が生えているごく普通のお庭。
「レイさ」
「ん?見つかった?」
「まだなんだけど…。
小さい頃、やっぱりここで花火とかしたの?」
「え?」
「わたしは家の庭でやったよ、花火。レイは?」
「……」
「レイ?」
「……言っていなかったっけ」
「何を?」
「僕…この家の養子だって、言わなかったっけ?」
わたしはネックレスを探していた顔を上げ、コテンと首を傾げているレイを見た。
「……聞いていないんだけど」
「この家にはつい最近養子に入ったんだ。
養子に入ってすぐぐらいに、日向と出会ったんだよ」
「……何それ。パパは知っているの」
「おじさん?知っていると思うよ。
おじさんは父さんや母さんと仲が良いからね」
「レイ……どうして養子になったの」
「大したことじゃないよ?」
「ちょっと気になる」
普通はそういうの軽々聞いて良いものじゃないと思うけど。
持ち前の好奇心なのか、はたまた違う理由なのか、わたしは聞いてみた。
レイはくすくすと楽しそうに笑いながら、『大したことじゃない』理由を話した。
「血の繋がった母親が逮捕されて、行く場所がなくなったからだよ」
「……」
「…日向?」
「た、大したことじゃないって…十分大したことよ!」
レイがあまりにも普通に言うものだから、一瞬フリーズしてしまった。
「父親の顔は知らない。
気付いたらずっと母親とふたり暮らしで、母親は逮捕されて行く場所がなくなったんだ。
それで僕が本来行くはずだった養護施設の職員だった今の両親が、話を聞いて僕を養子に迎えてくれたんだよ」
「え?
おじさんとおばさんって養護施設の職員なの?」
「そうだよ。
って言っても今は定年退職をしていて、ボランティアでたまに顔を見せているよ。
その時もボランティアで来ていて、現在も働いている後輩に僕の話を聞いてね」
確かにまだ20代前半と思われるレイの両親にしては、随分年齢が上だなぁとは思っていた。
世の中には高齢出産があるから、特に聞かず普通に接してきたけど。
まさかレイをとっても大事に可愛がっているおじさんとおばさんが、レイの義理の両親だったなんて。
「まぁ僕がどんな生い立ちでも、今の両親の方が尊敬しているし大好きだ。
それに今は日向もいるからね」
「ッ!?」
「日向は僕の太陽だ。その名前に君はぴったりだ」
わたしは立ち上がり、両手で頬っぺたを挟み込む。
ほかほかと、熱を持っているのか熱い。
レイの目が見えなくて良かったと思ったのは、きっと金輪際ない。
見えていたらきっと、わたしの真っ赤であろう顔が見えてしまっていたから。
「……でも」
「え?」
「わたしにとって、レイは太陽だよ」
「僕が?」
「レイがいるから、楽しいって思えるんだ」
ずっとずっと、真っ暗闇で。
底知れぬ不安と先の見えない恐怖の中、たったひとりぼっちで。
底なし沼にズブズブ、浸りたくないのに浸ってしまっている。
助けてって思い切り手を伸ばしても、誰も助けてくれなかった。
そんな中出会った君は、わたしにとっての唯一の光なんだ。
「ありがとう、日向。
日向だけだよ、そんな嬉しいことを言ってくれるのは」
「わたしだってそうだよっ…。
レイだけだよ、わたしを喜ばせてくれるの」
わたしはレイへ近づき、その手を取る。
ひやりと少し冷たい手を、わたしのまだ熱を持つ頬っぺたに当てる。
当てたのはレイの右手だけだったけど、レイは自ら左手を上げ、わたしの頬を優しく包み込んだ。
「熱いね、熱でもある?」
「ううん大丈夫」
「そっか。無理しないでね」
レイは探るように手を動かし、わたしの腕を優しく掴み、引いて座らせる。
そのまま腕を伝い首に手を当てると、レイは自分の背中に手を伸ばし、何かをわたしの首にかけた。
「……レイ」
「ふふっ、ごめんね」
レイの手が離れた時自分の首を見下ろすと、そこに輝いていたのは何も飾りがない、シンプルな金色の鎖。
レイがわたしに探してほしいと、珍しく早口で言っていたレイの探しものだ。
「サプライズ、喜んでくれた?」
「……思えば最初から変だったわ。
レイは外で何かに触れていたとしても、それを落とすような真似はしないわね」
「日向や両親が居れば良いんだけど、誰もいない時にそんな真似はしないね。
日向の洞察力に拍手」
「……ありがとう」
わたしは鎖を手に取り、ふふっと笑う。
レイもわたしを見て、ふわりと優しく微笑んだ。
「お誕生日おめでとう、日向」
あぁ。
「ありがとう、レイ」
あと何回、わたしは君にその言葉を言ってもらえるかな。
*つづく*
一応言っておきますがこのふたりは付き合っていません
今後どうなるかわかりませんが…
ほのぼのした可愛いふたりで、
私も書いていて気に入っているので皆さんも気に入っていただけると嬉しいです!
次の展開は?と言われてしまいました
恥ずかしいですね(*´ω`*)
首にかけるシーン
是非誰か絵にしてもらいたいですね
色鉛筆で色づくと綺麗なんだろうなぁと勝手に妄想しています
#3載せますね!
うん
ハンデがありながら
それを感じさせない生き方もあるのかな
で次の展開は?