『君の隣で笑えたら』#4
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/08 11:27:26
レイside
青空を自由に飛んでいく鳥。
同じよう自由に風に流されていく雲。
ふわりと風が吹き、額にかかる前髪が揺れた。
「レイ」
大きな自然を感じていると、後ろから呼ばれる。
僕はゆっくり縁側の床に手を付きながら、振り返る。
「どうしたの」
「さっき連絡があって、日向ちゃん、少し来るの遅れるそうよ」
笠木日向。
僕の家の隣に住む、年下の女の子。
多くの人が関わるのを避けてしまう僕に分け隔てなく接し、まるで太陽のように明るい彼女がうちに来るのは、毎日の日課。
基本多くは動けない…動きたくない僕の代わりに、お母さんは電話を取り僕に日向の連絡を教えてくれた。
「そうなんだ」
「寂しそうね」
「そりゃそうだよ。
日向は僕にとっての心臓みたいなものなんだから」
「……そう」
「うん。
日向がいないと、何かが抜けてしまったように空虚に感じるんだ」
「日向ちゃん、レイに大事にされているわね」
ふふ、とお母さんは笑い、パタパタと足音が遠ざかっていく。
僕は家の中に向けていた体を、再び外へ向けた。
恥ずかしくなんてない。
不幸せだとも不自由だとも思わない。
間違いないよ。
日向はちゃんとした、僕の心臓そのもの。
日向がいるから、僕の心臓は動いているのだよ。
そよそよと優しく吹く風に当たる。
きっと人間は、太陽や土、木々や草花がなくなったらすぐに気付くだろう。
だけど、風はどうだろう。
人間はこの世から風がなくなっても、同じよう気付くのだろうか。
すぐじゃなくても、きっと気付くだろう。
通り道の途中に誰かの家にかかっている風鈴の音がしなくなったり。
夕方になるとどこからか漂う、美味しそうなご飯の匂いがしなくなったり。
いつも何気なく感じていることが感じなくなり、初めて人はそれに気付く。
太陽だと。
心臓だと。
僕は日向をそう表したけど。
日向は、僕の大事な風でもあるみたいだ。
なくてはならない存在。
忘れては駄目な存在。
普段は気にしなくても、いなくなったら駄目な存在。
僕にとっての日向は……きっとそんな人だ。
くしゃり、
葉を踏む音。
「……日向?」
「うわっ?やっぱり何で気付くのー?」
「言ったでしょう?
日向のことならすぐに気付くって」
くしゃりくしゃりと、風に揺られ落ちた葉を踏みながら、恐らく走る日向。
そしてそのまま、いつもは僕の隣に座るのだけど。
ぎゅっと、
しがみつくように、日向は僕の腰に首に手を回し、軽い全身を預けてきた。
「……日向?」
ふわりと漂う、そのにおい。
誰しも1度は感じたことがあるであろう、それに。
嫌な予感しか覚えないのは、きっと僕が『そういった運命』を抱えているせい。
「日向」
何も言わない。
それとも、
何も言えないだけ?
「日向………」
その後に何を言えば良い?
何も浮かばないよ。
日向。
その後は何?
日向。
日向。
――日向
「……君は一体、何を抱えている?」
服に染み込む、雨のように冷たい『それ』に。
ぐっと、心臓を鷲掴みにされたように苦しくなるのは何故?
「……レイ」
「日向」
「……わたし、今の生活が続いてほしいの」
「うん、そうだね」
「レイの隣で……笑っていたいの」
あぁ、
誰だか知らないけどとても残酷だ。
あなたの傍で笑っていたい。
そんな願いも叶えられないなんて、残酷だ。
*つづく*
徐々にENDに向けてのカウントダウンが始まった気がするみいさんです。
初めてレイsideにしてみました。
うーん、ちょっとポエムっぽい言い回しが特徴的?なレイさんです
>きっと人間は、太陽や土、木々や草花がなくなったらすぐに気付くだろう。
だけど、風はどうだろう。
人間はこの世から風がなくなっても、同じよう気付くのだろうか。
すぐじゃなくても、きっと気付くだろう。
通り道の途中に誰かの家にかかっている風鈴の音がしなくなったり。
夕方になるとどこからか漂う、美味しそうなご飯の匂いがしなくなったり。
いつも何気なく感じていることが感じなくなり、初めて人はそれに気付く。
この言い回しは私が持っている、
風鈴屋を舞台にした小説に載っていたフレーズを
私版にアレンジしたもの
『八百八寺の風鈴屋』(はっぴゃくやでらのふうりんや)
メディアワークス文庫・石崎とも、著
>忘れては駄目な存在。
これはこの間3回目観に行った
『君の名は。』に出てきた台詞です
実際『忘れちゃ駄目な人』なのですが
レイが『忘れちゃ』の『ちゃ』を言うような人ではない?となり
『忘れては駄目な存在』となりました
多分日向sideなら『忘れちゃ駄目な人』だったと思います
ところでこれ、一体どれぐらいまで
続くのでしょうか
自分でも決めていませんがキリの良い数字にしたいです
言っていないだけで
実は結構ふたりが抱えている秘密について
触れている場所が何度かありますね
確かに人混みで目を瞑ると危険ですね
ベランダなどなら平気でしょうね笑
不思議な感覚ですよねそれ
最後の「残酷」というフレーズが引っかかります
何かがある、起こる?
外で目をつぶると
光は暖かく、風はすこし軽やかに冷たく感じます
そんな感覚って好きですね
(↑人ごみでやると危険です ^^ )