『君の隣で笑えたら』#6
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/12 20:40:59
レイside
「日向…遅いな……」
いつももう来ているのに、日向が来ない。
不安になりつつ、いつもの縁側で来るのを待ち始めて、感覚では15分ほど。
何度も「遅いな」と繰り返しながら、待つ。
「レイ」
「お母さん…」
「冷えちゃうでしょう?肩に羽織っていなさい」
この間熱を出し寝込んでしまった僕のため、肩にふわりと柔らかい布がかかる。
「ありがとう」とお礼を言うと、ぽんぽんと頭を撫でられた。
お母さんにもお父さんにも、こうして頭を撫でられるのは好きだ。
「日向ちゃん遅いわね」
「うん……」
「寂しいかしら?」
「いつもある存在がないと寂しいよ」
「……レイ」
少しだけ寂しそうな声音。
僕はあえて気にしない素振りをしながら、手探りで白杖を探し立ち上がった。
「日向の所行っても良い?」
「危ないわよ」
「大丈夫。今は調子が良いんだ」
お母さんが心配するのは、僕の目が見えないからじゃない。
お母さんが心配しているのは、僕の……。
「日向の家はわかるし、前にも様子を見に行ったことがあるでしょう?
だから大丈夫だよ」
「レイ」
「駄目?」
首を傾げて聞いてみると、お母さんは僕の頭を撫でた。
「気を付けてね」
「うん、ありがとう」
こつ、こつ、と白杖が地面を突っつく音を聞きながら、日向の家を目指す。
以前にも前まで行ったことがある。
まぁ、前に行った時…少し嫌な人に出会ったのだけど。
「やぁ」
「……?」
家の敷地を出て日向の家の方へ白杖を向けた途端聞こえた、軽いけど重たい声。
こつり、と振り向き後ろから声をかけてきた彼と向き合う。
顔は見えないけど、声で覚えている。
目が見えない分、どうやら耳が発達したらしい。
…それに、彼はたった今思い出していた、少し嫌な人だったから。
「白杖…そういやこの間も持っていたな」
「こんにちは、遠山くん」
日向のクラスの委員長を務めているという、口調も態度も堅苦しい真面目な人だ。
出来る限り温厚な口調を心掛けたのだけど、ふんと鼻で笑われた。
「嫌味だな。まるで俺が敵だと思っていないようだ」
「敵?」
「敵でもないが味方でもない。
お前、俺が本当に敵だったら、その口調はどうかと思うぞ」
「1度出会って話しただけだろう?
それなのに敵も味方も関係ないよ」
「お前…確か名前は、時任レイと言ったか」
「そうだけど?」
「時任というのは生まれつきの名字なのか」
少し、抑えたような口調。
誰にも聞かれたくないように、僕だけに聞こえる声量。
その意味をよくわからなかったけど、素直に答えることにした。
「時任は僕の義理の両親の名字だよ。
僕は時任家に引き取られた、養子だよ」
「……」
「どうしていきなり聞いたんだ?
答えたんだ、僕の質問に答えてもらっても良いだろう?」
「……それもそうだな。
ふむ、では何故俺が聞いたのか教えるとしよう」
少しの間を置き、遠山くんは僕が予想もしなかった質問をしてきた。
予想もしなかった、のではない。
予想したくなかっただけかもしれない。
「俺の父親は警察官でな。
昔父親が扱った事件で保護された子どもが、レイという名前だったのだ」
「……」
「佐崎(さざき)という名字を持つそのレイという子どもは、その事件で視力を失い、トから始まる変わった名字の家へ養子になったと聞いたからな」
「……」
「時任、少し変わった名字だろう?
それに、レイという同じ名前のあんたは、視覚障がい者だ」
ぎゅっと、白杖を握りしめる。
そしてそのまま、僕は大きく息を吐いた。
「たまたまじゃないか?
僕は確かに時任という変わった名字の養子で、この通り目が見えない。
君のお父さんが関わった事件に出てくる子どもとも、名前が同じだ。
君が僕を疑うのも無理はないが、決めつけるのは早いんじゃないのか?」
「偶然にしては出来過ぎている」
「そうだね。
きっと僕も君と同じ立場なら、疑っていたよ。
でも断言しよう、僕は君の言うレイとは別人だ」
「……」
「それだけ?
それが聞きたいだけで僕のことを待ち伏せしていたのか」
「違う。
待ち伏せなんかではなく、笠木日向に会いに来たんだ」
「……ふふ、奇遇だね。僕も日向に会いに行く所なんだ」
僕は杖を持っていない手を、スッと差し出した。
「白杖だけだと実は不安でね。
同じ目的地ならどうだろう、僕を日向の家へ連れて行ってくれないか?」
「はっ?何で俺が」
「自分で言うのも癪だけど僕は障がい者だよ。
そういう人には優しくするものではないのかな」
「……クソッ」
ガシッと、少々乱暴だけど、大きくてガッシリした手に握られ、導かれる。
立派な手だ。
僕とは違って、しっかり筋肉がついた男らしい手。
これだったら……任せられるかな。
「ごめんねレイ遅れちゃって…って、え?」
「プリントを届けに来たぞ。学校に来い」
「何で遠山がいるの?…まぁ良いや、行かないよ」
遠山くんと手を離し、日向と手を繋ぐ。
小さくて可愛い、女の子の手。
守らなくてはいけない存在だと、不思議と感じた。
「どうしてだ。何故行かない」
「どうしてでしょうねー?」
本音を言わない、明るい口調。
日向は僕の手を取り、急いで…でも僕が転ばぬよう優しく導いてくれた。
遠山くんの声が後ろから聞こえたけど、次第に聞こえなくなった。
「遅くなってごめんね?」
「ううん」
「でも本当驚いたよ。レイと遠山が一緒にいるなんて」
「日向の家に行こうとした途中で、呼び止められたんだ。
それで、目的が同じなら導いてほしいって僕から頼んだんだ」
「珍しいこともあるものね」
日向が僕の隣に座る。
「レイ、触れられるの苦手でしょう?」
そう。
僕は誰かから触れられるというそのスキンシップ行為が、大嫌いで苦手だ。
最初は今では慣れた、お父さんとお母さんに頭を撫でられることも、こうして日向と手を繋ぐことさえも拒否していた。
今では慣れたけど、日向やお父さんお母さん以外の人に触れられるのは苦手なままで、自分から触れるなんて自殺行為に等しかった。
そんな僕が今日、お父さん以外の男の手に触れた。
僕とは違う、大きな手に。
「何か心境の変化?」
「なんとなく。
少し、興味を持ったんだ」
興味というか、試したかったと言う方が正しいかな。
「興味?レイが他人へ興味を持つなんて、やっぱり珍しい。
今日は雪でも降るのかな」
「雪は寒いから苦手だよ」
でも、今日会えて良かった。
少し嫌な話を聞いて、初めは最悪だと思ったけど。
だってそうだろう?
僕が今現在、最も大事にしている日向に近づくんだよ?
冷静でいられる方が可笑しいのでは?
でも、会えて良かったよ。
本当に。…心の底からそう思うね。
試した甲斐があった。
彼は、遠山くんは。
真面目で真っ直ぐな、十分頼れる男だった。
「明日はいつも通り行くからね?」
「……」
僕には花を咲かす義務がある。
例えそれが醜悪(しゅうあく)な花でも。
このちっぽけで小さな世界を、花で埋め尽くそう。
「うん、待っているね」
ほら、咲いた。
醜くて、でも僕にとっては命と等しいぐらい大事な花が。
*つづく*
最後の
「僕には花を咲かす義務がある。
例えそれが醜悪な花でも」
は、小説内に書いてあったのですが、良い機会?なので使ってみました。
昨日
日向sideで載せるか迷いましたが、
日向はあんまり難しい言葉を使わないので、
今回のレイsideで使わせていただきました
遠山くん、良い味出しますね
書きやすいですし
これからも良い味を出してくれるよう期待しましょう
…書くの私なんですけどね笑
良いダシですね
味は話全体かな?
お母さんの心配していること
スルーされたり気付かなかったらどうしようと書き終わってから気付いたのですが
良かったですスルーされていなくて笑
これからの展開はどうなるのでしょう?
私自身もあんまり知らなかったり…?
試合どうなりますかね~?
出ました・・・過去???
咲く花は奇麗だが
命は短い
お母さんの心配していることって何?
これからの展開は!
初戦、ベイは負けちゃったけど
ガンバレ~^^