『君の隣で笑えたら』#7
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/13 19:56:57
「……日向、その手に持っているものは何?」
何も話していないのに、レイはいつも通りわたしに聞いてくる。
わたしは「熱いよ?」と言いながらレイの手を取り、その上に乗せた。
「焼き芋?」
「そう!
ママが買ってきてくれたの、食べよう?」
「ふふ、良いよ」
季節はもうすぐで秋。
半袖では寒く、わたしは今日長袖を着ている。
レイも長袖に、ふわふわの毛布を肩に羽織っている。
この間、わたしが遅れてしまった時も羽織っていたものと同じだ。
「ホクホク……美味しいね」
「でしょ~?」
紫色の皮に包まれた、眩しいほどの黄色いお芋。
レイと並んでご飯を食べるなんて初めてだ。
いつも他愛もない話をしているだけだったから。
「……そういえば、日向」
「え?」
「どうして、日向は学校に行かないんだい?」
口の横に黄色いお芋をくっつけたレイが聞いてくる。
質問をスルーし教えてあげると、レイは取った後わたしを見た。
「日向、答えたくないのなら答えなくても良いよ」
「……」
「ただ、日向がもし傷ついているのなら、僕にその傷と寂しさを分けてほしい。
ふたりで半分こしたいんだ、この焼き芋のように」
たったひとつだけの、焼き芋。
わたしはレイに気づかれた時、その前でふたつに割り、大きい方をレイにあげた。
上手く割れた半分この片割れは、レイの手が優しく握っている。
レイは目が見えないけど、きっと触った感覚で半分こしたことをわかったのだろう。
「……じゃあ、教える」
「無理しないで良いんだよ?」
「ううん、言いたいの。
本当はずっと、パパとママ以外の人に言いたかったから」
一呼吸間(ま)を置き、わたしは不登校な理由をレイに話した。
「行っても意味ないと思っているから」
「……」
「遠山くんが言ってた。
学校に行くのは大事なことだって。
でも、わたしはそうは思えないの」
「……どうして?」
「だってわたし……卒業出来ないもの」
わたしはまだあたたかい焼き芋を齧る。
ママが買ってきて、すぐに家を飛び出しここに来た。
レイと半分こしたかった、このお芋を。
「卒業出来ない……どうして言い切れるの」
「わたしは、学校に通っていないんじゃないの。
わたしは学校に、通え…ないの」
「通えない…?」
きっとその後も言っても良いのだろうけど。
わたしは喉が詰まったようで、何も言えなかった。
「……ありがとう、教えてくれて」
だから、お礼を言われたのには凄く驚いた。
「え?
どうして…お礼なんて言うの?
わたし、本当の理由は何も…」
「良いんだよ。
最初に言ったでしょう、無理して言わなくて良いんだよって」
「……」
「全部言えていなくても、言おうとしてくれるその心意気が嬉しいよ」
「……」
「僕も、何か話すとするか……ギブアンドテイクでね」
「えっ、悪いよ。
それこそ無理して話さないで」
「話したいから話すのでも、駄目なのかい?」
両端の固い部分以外は全て、皮まで食べきったレイが笑う。
首を振ると、レイが笑った。
「僕はね、父親の顔を知らないんだ。実のね」
「……」
「ずっとずっと、母親とふたりきりで過ごしていたんだ。
母親は理由をよく知らなかったけど、よく家にいたよ。
たまに外出する時はあったけど、基本は家にいたんだ」
「……」
「僕の中で母親ってのは、冷たい人。
今のお母さんとも日向のお母さんとも、別人でとっても冷たい人。
僕が呼んでも、面倒そうに振り向きもせず、ただ舌打ちをするだけだった」
「……」
「だから、僕は……母親に頼れなかったんだ。
何があっても、頼ることが出来なかった。
嫌だったんだよ……舌打ちをされることも、僕を見てくれないことも」
レイはふぅ、と息を吐き羽織っている毛布で身を包んだ。
「もう少し早く、この家に来てきれば、きっと変わってた」
レイはわたしを振り返り、柔らかく微笑む。
だけどそれはいつもの笑顔じゃなくて、作ったような笑顔。
作られている、ある意味で完璧な笑顔。
「日向、僕にはまだ君に言っていない秘密、結構あるんだよ」
「……わたしもあるよ?」
「ふふ、だから日向の隣にいるのが僕は好きなんだ。……あははっ」
レイは珍しく、声を挙げて笑った。
だけどわたしには、見えてしまった。
「日向、これからも僕の隣にいてほしいな」
レイの目に、薄っすら光るその……透明な涙に。
*つづく*
ちらりとふたりの過去が見えてきましたー
でもこれぐらいじゃ終わりませんよっ
日向が学校に行かない本当の理由や
レイが時任家の養子になった理由や経緯など
そして、レイが実母に言えなかったことなど!
過去ありキャラが好きな私は
書くのが楽しみですねっ
そして過去がわかった先にある
ふたりが抱えている、本当の『秘密』とは……?
ちなみに今回の焼き芋は
書き始めた時に焼き芋屋さんのアナウンスが聞こえてきたからです笑
焼き芋屋さん、良い話の提供をありがとう笑
季節の細かな設定を決めていなかったので
焼き芋屋さんが来ただけで決めてしまった…
ご想像にお任せしますっ
いずれ出てくるので想像を膨らませて待ってみては?
ん~
勉強は卒業するために簡単な卒業論文を今書いていて
就職活動はまだ終わっていないですね~
探している合間に書いているので!
息抜き?です
そして寒い心の二人にはホクホクの焼き芋はピッタリかも
本当の秘密?
秘密を抱えている同士の二人
ん~
何なんでしょう
それより就職活動と
お勉強は大丈夫?ですか^^