『君の隣で笑えたら』#8
- カテゴリ:自作小説
- 2016/10/16 14:52:53
「……何でいるの」
着替えて部屋を出て、1階のリビングへ朝ご飯を食べに行ったら。
リビングにはママではなく、わたしがいるクラスの委員長をしているという遠山が我が物顔で座っていた。
「まさかふほ」
「不法侵入なんてしていない。
尋ねたら笠木の母上殿が出掛けると言って慌てて出て行ったのだ。
俺だけがひとり残されたというわけだ」
「……」
ママってば。
どうして勝手にわたしの許可を取らずに入れちゃっているの。
パパとママじゃない、学校に行かなくても良いって言ってくれているのは。
「笠木、良い加減教えてくれないか。
教師陣もお前の学友も、お前が不登校を続けている理由を何も知らない。
知らないふりをしているのではない、本当に知らないのだ」
「そりゃそうでしょ、言っていないのだから」
わたしは朝ご飯である、食パンをトースターにいれた。
「笠木日向。
1年時から入部した女子バスケットボール部では1年ながらレギュラーの座を勝ち取り、先発出場した地区大会ではスリーポイントシュートを2本決め、県大会、全国大会へと部員を導き、全国大会でも誰よりシュートを決め、見事優勝へ導いた、通称女子バスの絶対的エースであり、勝利の女神」
調べたのかよ……。
「クラスでは学級委員長を務め、男女問わず多くの人と関わりを持ち、クラスになくてはならない存在だった。
成績も優秀であり、それを自分だけに収めず周りの困っている生徒に積極的に手を差し伸べ勉強を教え、クラスで落ちこぼれだと馬鹿にされていた生徒を今ではトップ10いりをするほど熱心に勉強を教えた。
スポーツは部活で鍛えた足を生かし、体育祭ではリレー選手でありアンカーを務め、クラスを優勝へ部活同様、導いた。
聞き取り調査の結果、誰もが完璧・なくてならない存在だと口を揃えて言っていた」
「あんた、警察に向いているよ」
「しかし1年の終わりから部活を休み始め、学校も遅刻欠席が相次ぐようになり、2年のクラス替えを機に突然学校へ全く来なくなり、今の状態が現在も続く。
心配した部員やクラスメイトがお前の家を訪ねたが、調子が悪いという理由で全て拒否し、誰もお前の姿を見ていない」
「……」
「ちなみに俺の父親は警察だ。
情報収集能力は、警察官である父親と、新聞記者である母親から受け継いだものだ」
警察と新聞記者の息子…うん、確かに納得の情報収集能力だわ。
「何故誰も知らない。
お前を信頼してレギュラーを任せた先輩も、お前を慕っていた後輩も、お前といつだって笑っていた学友も、何故誰もお前が不登校になった理由を知らない。
どうして誰にも何も言わない!笠木日向ッ!!」
チーンッと、トースターの音が鳴り、食パンがこんがり焼き上がる。
わたしは急いで素手でパンを掴み、お皿に乗せるとそのまま食べ始める。
遠山は、そんなわたしに苛立ち、バンッとテーブルを叩き立ち上がった。
「どうしてそこまで誰にも言わないのだ!
お前は先輩も後輩も友達も信用していなかったのか!
誰もが完璧だと、なくてはならない存在だと口にしていたが、それは作られた演技で嘘で、俺は騙されているのかッ!」
さく、
「お前が学校に来ない理由は何なのだッ!」
さく、
「教えてくれッ!!」
わたしはパンを齧っていたけど、大きく息を吐いてパンをお皿の上に置いた。
眼鏡の奥の瞳を、これでもかというほど大きく開いて。
血走らせて。
鼻息荒く、わたしが不登校になった理由を知りたいと叫んでいる遠山が。
何だか少し、可哀想に思えてきた。
必死で、報われようと必死な彼が。
「……わたしは、学校に行っても意味ないの」
「はぁ……?」
「だってわたし、卒業出来ないんだもの。行っても意味ないわ」
「成績優秀者が何を言う。留年すると取り組む前から諦めているのか」
「留年ぐらいだったら普通に行っているわよ。
留年じゃなく、わたしは卒業出来ないの」
さっき、わたしはリビングに来る前、着替えた後机に向かい、ペンを走らせた。
思いつくがまま、文章がぐちゃぐちゃでも、わたしはペンを走らせた。
大事な人に、全てを教えるために。
「はっ……何を。死ぬわけでもあるまい」
「死ぬの」
「……は?」
「わたしは、数ヶ月後に死ぬの。
だから、学校に行かないで、死ぬまでのカウントダウン中である今、好きなことをして後悔なく死ぬよう…何て言うんだろう、準備中?なのよ」
『拝啓 時任レイ様
突然こんな手紙を書いてごめんなさい。
今手紙を読んでいるあなたの傍に、わたしがいることを願います。
今あなたに手紙を、全てを伝えるために手紙を書いている理由を教えさせてください。
わたしは、笠木日向は、数ヶ月後この世にいません。
わたしの余命は、あと数ヵ月です』
「皆には、わたしのことを早く忘れてほしい。
だからわたし、学校に行っていないの。
皆のことを、少しでも哀しませないためにね」
ふふっと笑ったわたしは、目の前の光景に吹き出した。
「……やだ、泣かないでよ。遠山」
わたしが生きている今を、覚えていてほしいのは。
パパと、ママと。
それから大事なあの人だけで良かったのに。
どうやらもうひとり、増えそうね。
*つづく*
笠木日向の不登校な理由とその秘密、明らかになりましたね~
ちなみにまだ朝が早く、
日向がレイの元へ行く時間ではないので
レイは今回初の未登場になりました
この後日向は遠山と別れ
レイの元へ向かうのですが…
果たしてどうなるのかな?
ENDをお楽しみに~
多分10話では終わりません笑
いつまで続くか未定ですが
お付き合いいただけると嬉しいです~
やはり?
想像ついていましたか?
日向は底抜けに明るいですね~
遠山くん、最初こんなキャラじゃなかった気もするのですが…
個性的なキャラクターを作るのは多いですね
やはり・・・
でもその割に表面上は明るいのが救われます
遠山君の存在も面白いですね
さて今後どうなるのでしょうか?